「規格外」の能力を持つモンスター 福西崇史のボランチ分析 Y・トゥーレ編

北健一郎

攻撃ではファイナルサードで違いを作り出す

規格外なプレーを見せるヤヤ・トゥーレ。フィジカルコンタクトが強いプレミアリーグの中でも、その強さは際立っている 【Getty Images】

 ボールを奪ったあとは、1人でボールを運んでいくことができる。大きいので、あまり速そうには見えないかもしれないが、ヤヤ・トゥーレはかなり速い。おそらく1歩がメッシのドリブルの2、3歩分ぐらいある。ボールを持って運んでいくと、追いかけていた相手をどんどん引き離してしまう。

 自陣の深い位置から約30メートルの距離をドリブルで持ち上がるプレーも珍しくない。このとき、ヤヤ・トゥーレが多用するのが「さらすドリブル」だ。ボールを相手の足が届きそうな位置に置いて、食いついてきたところで先に触って逃げていく。ドリブル自体がうまいというより、間合いをとるのがうまいというほうが正しいのかもしれない。ただ、技術が低いわけではなく、ボールタッチの柔らかさや、しなやかさは長身選手とは思えないほどだ。

 ヤヤ・トゥーレが規格外だと感じる要素の1つに、攻撃時はボランチの枠に収まらずトップ下としてもプレーできることが挙げられる。相手陣内でボールを回しているときは、トップ下のポジションまで出ていくのだ。

 特に有効なのが相手がブロックを作って守りを固め、攻めあぐねているとき。マンチェスター・シティはダビド・シルバやサミル・ナスリなどパスを出せる選手がほかにもいるので、ヤヤ・トゥーレは基本的にシンプルにボールをさばいているのだが、相手のマークがずれた瞬間に前線のセルヒオ・アグエロらにラストパスを供給する。

 小柄なシルバやナスリとはまた違って、リーチの長いヤヤ・トゥーレならではの独特のタイミングで繰り出すパスが、マンチェスター・シティの攻撃のアクセントになっている。ボランチの位置でフィニッシュの1つ前の攻撃のスイッチを入れられる選手はいるが、ヤヤ・トゥーレのようにファイナルサードで違いを作り出せる選手は世界中を探しても少ない。

唯一の欠点は「気分屋」なこと

 とはいえ、ヤヤ・トゥーレに欠点がないわけではない。それは、ちょっと気分屋なところではないだろうか。60〜70%ぐらいのパワーでも、人並み以上のパフォーマンスを発揮することができるため、プレミアリーグの試合を解説していても「今日は明らかに手抜きモードだな」と感じることがある。

 そういうときは、トップ下の位置に上がったままで守備に戻らなかったり、集中力を欠いたパスミスをするシーンも見られる。強いて課題を挙げるとすれば、もっとコンスタントにパフォーマンスを安定させることだろうか。逆に言えば、それぐらいしか欠点が見つからない。ビッグマッチで見せるプレーはすさまじいものがある。

 フィジカルコンタクトに強くて、テクニックもあって、CBからトップ下まで縦のポジションを串刺しにしてプレーできる。もはやボランチという枠に収まりきらないヤヤ・トゥーレは、ボランチの未来型といえるかもしれない。

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<目次>
第1章 守備編1 ポジショニング
第2章 守備編2 アプローチ
第3章 守備編3 1対1の守り方
第4章 守備編4 グループ
第5章 攻撃編1 ビルドアップ
第6章 攻撃編2 ターン技術
第7章 攻撃編3 ゲームメイク
第8章 攻撃編4 攻撃参加
第9章 ボランチの見方

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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