“禅マスター”フィル・ジャクソンの帰還 ニックスが再建を託す百戦錬磨の救世主

杉浦大介

フロント業務の経験不足が指摘される

一部ではフロントとしての経験不足を指摘する声もあるフィル・ジャクソン。球団社長としてどんな手を打っていくのかに注目が集まる 【Getty Images】

 そのオーナーから5年6000万ドル(約61億円)という破格の契約を託された新球団社長に対しても、懐疑的な見方がないわけではない。

「ジャクソンはフロントに近い位置にいたことはあっても、実際にGMとして仕事を行った経験があるわけではない」

 ESPN.comのブライアン・ ウィンドホースト記者が指摘する通り、史上最高勝率コーチも、フロント職での実績は皆無。しかも近年の乱暴なチーム作りのおかげで、現時点でニックスの来季の給料総額はすでにサラリーキャップを超過し(=FAでの補強が困難)、ドラフト1位指名権も持たない。

 そんな状況下でのチーム再建は、どれほど経験豊富なGMにとっても並大抵の難しさではない。この苦境を抜け出すためには、より若く、現代NBAのビジネスモデルに熟知した人材を登用する方が安全だったかもしれない。

独裁政権を変える“最後の切り札”

 ただ……経験不足のマイナス面を考慮した上で、それでもジャクソンの入閣はメリットも大きいように思える。

「フィルは“勝者”としての名声を持っている。そして勝つために何が必要かも分かっていて、周囲に信じさせることができるんだ」

 タイソン・チャンドラーのそんな言葉通り、リーグ史上屈指の「WINNER(ウィナー)」である新球団社長に惹かれ、ニックス入りに興味を持つスター選手は多いに違いない。ジャクソンの言葉には独特の説得力があるだけに、ファンもしばらくは我慢するだろう。そして何より、いつ前言を翻しても不思議はないドーランの現場介入をシャットダウンし続けるのに、稀有(けう)なカリスマ性を持つジャクソン以上の存在はあり得ないように思える。

 逆に言えば、これほど迫力ある人物でもドーランの独裁政権を変えられなかったら、もう候補者は残されていない。そういった意味で、フロント職未経験者ながら、ジャクソンはニックスにとって“最後の切り札”に近いのだろう。

 いずれにしても、常に騒がしい大都会の伝統チームが、また興味深い方向に進んだことは間違いない。救世主は、百戦錬磨の“禅マスター”。

 現状打破のために、これからどんな手を打っていくか。今季限りで契約オプトアウトし、FAになることが濃厚なカーメロ・アンソニーとの再契約問題にも注目が集まる。殿堂MSGに一時的にでも戻ったニックスファンの笑顔の行方は、すべて68歳の老雄の今後のさじ加減次第なのである。

<了>

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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