Jリーグの品位を落とした浦和差別問題 サッカー面でも求められるチームの改善

島崎英純

今季を象徴する原口の献身ぶり

リーグ戦では2勝1敗。広島戦では貴重な追加点を決めた原口(左)だが、今季は守備における献身さが際立つ 【写真は共同】

 ペトロヴィッチ監督が志向するチームスタイルはそれほど変化していない。3−4−2−1という特殊なシステム、攻撃、守備で隊形が変わる可変システムは昨季までと同様で、守備の基本戦術がマンマーキングであることも変わらない。ただし、これまでは選手個人、一人一人の裁量で守備組織を形成してきたのに対し、今季はチーム全体の明確なコンセプトの下で秩序だった守備を行っている。例えば昨季までは前線の攻撃的な選手たちが意欲高く相手選手にアプローチしてプレス&チェイスを行う一方で、バックラインや中盤の選手が相手の攻撃を防御する態勢を整えて自陣に引いてしまうチグハグさが目に付いた。これではチーム全体のコンパクトネスが保てるわけもなく、簡単に相手に攻略を図られてしまう。そんな共通概念すらなかったのかと言われればそれまでだが、そのくらい昨季までの『ミシャ・レッズ』は、守備に対しておざなりな所作が目に付いたのである。

 だが今季は異なる。バックラインは前線選手の意を汲んで高い位置取り維持に腐心しているし、前線の選手も守備的選手の献身に呼応してディフェンスの責務を怠らずに組織維持に邁進している。その象徴的な存在が今季チーム伝統のエースナンバーである背番号9を背負う原口元気である。攻撃に才を成す彼はこれまで、攻撃に注力することでチームへの貢献をアピールしてきたが、今季は全力攻撃、全力守備の姿勢が色濃い。特に相手ボールホルダーへのアプローチは強烈で、90分間に渡ってチームプレーを貫いている。

 また浦和の守備戦術の細部を少し考察すると、昨季までの浦和はマンツーマンに加えて、あらゆるエリアに選手を配備するスペースケアで自陣全体に蓋をする『ポジションサッカー』を基盤としていた。縦横左右に均等に選手を並べることで隙間を埋めるわけだが、サッカーのピッチは広大であり、どうしても局面にギャップが生まれてしまう。対戦相手はこの浦和の弱点を見抜き、これまで浦和の守備組織を何度も打ち砕いてきた。そこで今季の浦和はシステムこそ昨季と同様ながら、これまで実行してこなかった局面を狭めるスライド守備を行っている。これはワールドスタンダードな戦術を採用するチームとしては極々普通の守備戦術で、相手ボールホルダーへチーム全体でアプローチして局面を狭めて相手のプレースペースを制限する意図がある。

フレキシブルに戦術を変更しているが……

 また、今季の浦和は対戦相手によってフレキシブルに戦術を変えている。第1節のG大阪戦や第2節の鳥栖戦では、上記したスライド守備が徹底され、相手の攻撃を組織全体で受け止める慎重な姿勢が見られた。だが第3節の浦和と同スタイルのサッカーを展開する広島との対戦では積極的な相手へのアプローチとタイトチャージで局面勝負を制し、スライド守備ではなくスペースケアで相手を封じている。

 広島との一戦は『ミラーゲーム』と称され、各選手がマンマークでそれぞれの相手選手と対峙(たいじ)する1対1の勝負が生まれる傾向が色濃い。この場合は守備に混乱を来たすリスクのあるゾーンディフェンス、マークの受け渡しを発生させるよりも、各選手がおのおのの役目を全うして個人勝負に持ち込む方が守備組織を機能させやすい。浦和はこの『広島対策』を12年のペトロヴィッチ監督就任以来一貫して続けており、そのリーグ戦対戦戦績は初戦の2012シーズン第1節で敗戦して以降4戦全勝の4勝1敗と、浦和が大きく勝ち越している。

 ただ、リーグ戦第3節を終えて2勝1敗、得点3、失点1という数字から浦和の守備が格段に向上したかどうかは今後のゲーム内容も踏まえて判断すべきで、今の段階で明確な評価を下すことはできない。例えば浦和が敗戦を喫した第2節・鳥栖戦では右ストッパーの濱田水輝が自陣でボールを奪われ、右サイドアタッカーの森脇良太とともにスライド守備を敢行したものの意思疎通が伴わず、鳥栖の左サイドバック・安田理大に縦突破されてクロスを上げられ、エースFW・豊田陽平にヘディングシュートを許している。この失点は組織的な守備戦術が一朝一夕で身に付くものではなく、これまでチーム戦術としての守備訓練を怠ってきた浦和が細部で綻びを見せる可能性を示唆している。

強烈なアタッキング力が影を潜めている

 さらに今季の浦和は守備面よりも攻撃面に懸念が募る。繰り返すが、リーグ戦第3節を終えて得点3、失点1。数字上は安定感があるものの、昨季まで猛威を振るった強烈なアタッキング力が影を潜めている。その典型は左ストッパー・槙野智章のオーバーラップが激減していることだ。守備的なポジションでありながら血気盛んな攻撃参加と強烈なシュート力を備える槙野の攻撃は浦和の得点力を高める大きな動機となっていた。しかし今季の槙野はチームコンセプトを遵守して無闇な攻撃参加を仕掛けない。特にスコアレスの状況やリードしている場面では慎重さが目立ち、そこにポジティブでアグレッシブな『ミシャ・レッズ』のカラーは見られない。しかし槙野の攻撃自重の所作は失点リスクの軽減に寄与しているのは間違いなく、槙野自身のプレー選択がチーム全体の共通判断であることは容易に理解できる。

 サッカーにおけるチームバランスは非常に繊細なものだ。攻撃が突出すれば守備がおざなりになるし、守備に注力し過ぎればゴールチャンスは減少する。ペトロヴィッチ監督のサッカースタイルは良い意味でリスクをかけた攻撃性に特長があったのだが、今季の浦和は守備に傾倒することでもともと備え持っていた魅力を失いつつある。

 チーム内にも、警鐘を鳴らす者がいる。1トップの興梠慎三は毎試合反省の言葉を述べ、今季初ゴールをマークして勝利に貢献した広島戦の後でさえも「ゴール以外は、自分のプレーは全然だめ」と語っている。トップ下の柏木陽介も同じく広島戦後に「ボールポゼッションは高かったけど、正直、相手に引かれた中で浦和が攻撃を仕掛けて、得点するような匂いはありました? ないですよね。そこは深刻に捉えています」と、結果と内容の両輪を得ることの難しさを吐露していた。

 今季の浦和がどのような道筋を辿って結末を迎えるかは、今の段階では予測できない。これまで長きに渡ってJリーグに旋風を巻き起こしてきたミハイロ・ペトロヴィッチ監督のサッカースタイルが『浦和のサッカー』として認知、評価された上で、タイトル奪取をも果たせるのか。正しい筋道は最大得点、最少失点。2014シーズンの浦和レッズは、この困難で意義深いタスクに挑んでいる。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

新着記事

編集部ピックアップ

「最低限のスコア」西郷真央が日本勢最高3…

ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント