フランスに完敗、課題を露呈したオランダ 特定選手への依存と薄すぎる選手層

中田徹

親善試合に完敗し危機感を抱く

フランスに完敗したオランダ。ファン・ペルシ(左)ら特定の選手への依存と薄すぎる選手層という課題を露呈した 【VI-Images via Getty Images】

 サッカーの国際Aマッチデーとなった5日、オランダ代表は、パリでフランス代表と親善試合を行い、0−2で敗れた。フランスが16本ものシュートを放ったのに対し、オランダはわずか4本だけだった。この体たらくに全国紙『アルヘメーン・ダッハブラット』は「守備がアキレス腱。(ルイス・)ファン・ハール監督はブラジルで魔法をかけないといけない」と危機感を隠せない。

 フランスの名門紙『レキップ』は「レ・ブルー(フランス代表の愛称)はワールドカップ(W杯)の準備に向けて完璧なスタートを切った」と代表チームをたたえた。彼らの採点を見るとフランスはFWカリム・ベンゼマ、MFブレーズ・マテュイディの8が最高で、最低はFWアントワーヌ・グリーズマン、ポール・ポグバ、ラファエル・バランの5。一方のオランダに対してはDFファン・デル・ビールだけ5がついて、あとは3と4のオンパレードだった。どれだけフランスの独り舞台だったのかは想像がつくだろう。

ダイナミックな選手に手を焼く

 試合前日の記者会見で、ファン・ハール監督は「フランスのサッカーはアスレチックでフィジカルが強いが、最近はフランスリーグを見ていても戦術面が成長している。ユベントスでプレーするポグバはとてつもないフィジカルを持ち、スピードがあって、テクニックも備えているモダンなプレーヤー。オランダにはいないタイプの選手だ」と語っていた。しかし、オランダ戦で活躍したのは、もうひとりのモダン・プレーヤー、マテュイディだった。

 32分にベンゼマが決めた先制ゴールは、マテュイディのミドルパスから生まれたものだったが、圧巻だったのは41分に彼自身が決めたゴール。フランスがカウンターを仕掛けると、マテュイディはベンゼマと前線でパスを交わしてからオランダゴール前まで猛ダッシュ。右から上げたマテュー・バルブエナのクロスは、ややゴールから遠ざかるように流れたが、マテュイディは体幹を崩さず、ボレーでしっかりボールを捉え、クリーンシュートをオランダゴールに突き刺した。

 ダイナミックなプレーを休みなく続ける、それがマテュイディの強みだ。パリ・サンジェルマンに所属するマテュイディは、チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦のレバークーゼン戦でも相手ボールを奪ってからスペースに走り込みゴールを決めている。フランス戦について、オランダ人の感想を見ると、ヨーロッパリーグ決勝トーナメント1回戦で、アヤックスがザルツブルク相手に2試合合計1−6と惨敗した試合を思い出したファンも多いようだった 。ザルツブルクもケビン・カンプルという走力、パワー、技術、戦術眼がある選手がキーマンだったが、アヤックスは止めきれなかった。オランダサッカー界として、この手の選手への対策が必要だ。

予選は好調もW杯出場国に勝てない

 ファン・ハール監督は「W杯の本命はブラジル、アルゼンチン、ドイツ、スペインといった国で、オランダはアウトサイダー。だからといって優勝の可能性がないわけでもない」と密かに世界一を狙っている。その鍵としてファン・ハール監督は選手のコンディションを挙げており、所属チームで出場機会がなく、試合勘を失っている選手は基本的に選んでいない。フランス戦はテストの場であった上、多くの選手が風邪をひいてしまい、アリエン・ロッベンも負傷で欠いた。それでも今回の完敗はファン・ハール監督のポリシーであるコンディショニング重視の選考が相手チームのパワーに屈したこと、あまりにロビン・ファン・ペルシとロッベンの出来にチームが依存していること、選手層が薄すぎることを露呈してしまい、オランダ人もショックを受けたようだ。

 W杯予選では9勝1分けという好成績を収めたオランダだが、W杯出場国との親善試合ではベルギーに2−4で敗れたのを皮切りに、ドイツ(0−0)、イタリア(1−1)、ポルトガル(1−1)、日本(2−2)、コロンビア(0−0)、フランス(0−2)と勝ちがない。もちろん大事なのは公式戦の方だが、日本戦の後半で守備が乱れてしまってから、「なぜオランダリーグの選手ばかり呼ぶのか」「なぜハードな守備ができるファン・ダイクを全く呼ばないのか」とファン・ハール監督の選手選考に批判が増している。
 フランス戦終了後、ファン・ハール監督は「後半、よくチームが立て直した」と語ったが、後半、オランダが放ったシュートはファン・ペルシの1本だけ。むしろファンたちの「後半はフランスがペースを落としてくれたから、0−3にされずに済んだ」という感想の方が試合の実態を表していた。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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