「その監督、何年目?」で占うJリーグ。2014シーズンの覇権は誰の手に

川端暁彦

勝負の3年目

まさに「勝負の年」を迎える浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督 【Getty Images】

 ところで、読者の皆さんはJリーグでは就任何年目の監督が最も多いと思われるだろうか?
 正解は、「3年目」。合計8名で、ここがJリーグ監督のボリュームゾーンだ。

 一時期に比べるとJリーグのフロントは総じて「我慢」するようにはなってきていると思うのだが、そのリミットが「3年」ということなのだろう。3年契約はほとんどのクラブにおいて監督に提示されるマックスの条件。よく「勝負の3年目」なんて言われ方をするのも、そうした背景あってこそである。

 そしてこの言葉が最も似合う監督は、ミハイロ・ペトロヴィッチ(浦和レッズ)だろう。サンフレッチェ広島をオリジナリティあふれるチームに仕上げ、Jリーグに一つの潮流を作り上げた同氏が、Jリーグ最大規模のクラブを率いることになって3年目を迎える。毎年のように子飼いの選手を集めており、今シーズンはGK西川周作とFW李忠成の2名が加わった。“サンフレッズ”なんて皮肉を込めた声がよく聞こえるようになってきているのは、「あれだけ集めているのに結果が出ていないじゃないか」という思いの裏返しである。本人も、自身が去った途端に広島が2連覇を飾ったとあっては内心穏やかではないはず。今季も結果が出ないとなれば、さすがに次のシーズンを任されるとは思えない。まさに勝負の年である。

 同じく勝負の3年目と言えば、川崎フロンターレの風間八宏監督の名前も思い浮かぶ。低迷を余儀なくされた1年目を経て、昨季途中からはサッカーのベクトルが整った印象がある。FW大久保嘉人ら2年目の新加入選手もうまくフィットしており、飛躍への期待感は十分。3年目はボランチとして栃木からパウリーニョを獲得できたのは地味ながら大きい。ボールを奪える選手である彼の存在は、速攻に強いMF中村憲剛と大久保の才能をより際立たせるはずだ。

 一方、「毎年が勝負の年」のオーラをまとっているのが甲府を率いる城福浩監督。公の目標は「7位」としているものの、現実的には残留を意味する「15位」が現実的目標だろう。そしてこの情熱派の指揮官は、確かにその現実を見据えながらシーズンへの準備を進めている。チームのベースは3年目を迎えてかなり高くなっている印象もある。簡単に残留を決めるほどの戦力はないが、最後まで粘り強く戦えるだけの力は今季も十分にありそうだ。

 その他では、昨季2位・横浜FMの樋口靖洋監督も3年目。今季はエースのマルキーニョスを失い(→神戸)、その穴が埋まっていないという不安材料を抱えたままのシーズンイン。AFCチャンピオンズリーグと並行して戦うような戦力的余裕があるとも思えず、何とも難しい舵取りを迫られる年となりそうだ。一方、昨季の後半戦に大きく勝ち点を伸ばして7位に入ったアルビレックス新潟・柳下正明監督も3年目。こちらもGK東口順昭(→G大阪)、MF三門雄大(→横浜FM)と主力を抜かれてのシーズンイン。ただ、FW川又堅碁の残留は頼もしく、築き上げた戦術的なベースを崩す必要はなさそうだ。

 J1昇格となった神戸の安達亮監督、徳島ヴォルティスの小林伸二監督もまた「3年目」。アグレッシブな指揮官である安達監督は2012年に飛び飛びでチームの指揮を執り、2013年はJ2で年間を通して指揮を執ったという、ちょっとイレギュラーな3年目。マルキーニョス、ペドロ・ジュニオール、そしてシンプリシオと、Jリーグで実績のある助っ人選手を大量補強したチームで求心力を発揮できるかどうかに注目が集まる。対照的に小林監督の徳島は非常に控え目な補強策。J2時代と同じか、むしろ低下した戦力で初のJ1に挑むことになった。

 そして最後になってしまったが、勝負の年どころか前2年で「すでに勝っている」指揮官がいることも忘れてはなるまい。今季のJ1リーグで3連覇を目指す森保一監督もまた、3年目。こちらは就任3年目どころか、監督3年目なのだから、とてつもないキャリアとなりつつある。

信頼の4年目

 3年目が勝負の年なら、4年目からはフロントの信頼を勝ち得た長期政権と言ってもいいのかもしれない。アフシン・ゴトビ監督(清水)と尹晶煥(ユン・ジョンファン)監督(鳥栖)というタイプの異なる二人の外国籍監督がこのカテゴリーに収まった。

 イラン出身のアメリカ人であるゴトビ監督は、就任してからの過去3年のリーグ戦で10位→9位→9位という、よくも悪くも安定した戦績を残してきた。清水というクラブに寄せられるサポーターの期待値を思えば不十分な実績だが、激しく選手が流出するなど激動の時期を経ていることを思うと、若手の登用が当たっていることを含めてよくやっていると見るべきかもしれない。少なくともフロントはそう判断したからこそ4年目も彼に託したのだろう。とはいえ、戦力ダウンもなかった今季は、中位で満足してもらえるということもなさそうだ。1年遅く来た「勝負の年」となりそうだ。

 鳥栖のユン監督は、現役時代の優雅なプレーとはかけ離れた徹底的なハードワークを選手に課す韓国式の“フットボール”でJリーグにその足跡を記してきた。就任初年度でクラブ初のJ1昇格を果たした2011年、そして連続残留を果たした2012年、13年を経ての4年目となるシーズン。昨季からはパスを重視した形へのゆるやかなモデルチェンジも図っているが、今季はその成果が問われる年となる。FW豊田陽平ら主力の流出は回避し、昨季途中から期限付きで加入していたGK林彰洋も完全移籍で確保できたのは大きい。あとは新たに獲得してきたMF谷口博之、DF安田理大といった、実績がありながらここ数年は低迷してきた選手たちを再生できるかどうか。そこがポイントとなる。

円熟の6年目

 現在のJ1最長政権は、「6年目」となる柏レイソルのネルシーニョ監督である。ブラジルを代表する名将は、勝ち切れないクラブだった柏に勝者のメンタリティーを植え付け、2010年にはJ2、2011年にはJ1優勝も飾った。今季はJリーグで確かな実績を持つFWレアンドロを獲得し、覇権奪還へ挑むことになる。AFCチャンピオンズリーグを戦わないのはリーグ戦を制する上での大きなアドバンテージ。シーズン前の戦いぶりには右サイドの人材難など不安要素も見え隠れしたが、そこはベテラン監督の手腕を期待したいところだ。

 優勝時の軸となったメンバーも、年齢的には随分と高くなってきた。一つの時代が終わりに近づいていることは多くの人が感じているところではある。今季の結果がどうあれ、ネルシーニョ体制もまた、私の感覚としてはそこまで長くはないように思う。少なくとも、63歳の指揮官が漂わせているのが「6年目のゆとり」などではないことは確かだ。豊富な経験と圧倒的な実績を備える彼もまた、「勝負の年」として2014シーズンに臨む。

 多彩な指導者が、多様な目標を掲げて挑む、2014年のJ1リーグ。来季も同じクラブで指揮を執れるのは、恐らく3分の2ほど。そんなシビアな戦いが3月1日、全国各地にて幕を開ける。

<了>

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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