スケート大国・オランダが鳴らす警鐘 着実な強化がもたらしたメダルラッシュ

中田徹

他国を分析し短所を克服

メダルラッシュに沸く一方、オランダ国内では日本など、かつての強豪国のレベル低下に危機感を抱いている 【写真は共同】

 また、ソチ五輪ではオランダが短所を克服したことが目を見張った。オランダではスケートは完全に個人種目と考えられていたが、韓国が個人の実力に比べて、パシュートで結果を出していることに注目、その練習姿勢や戦術、テクニックを分析した。

「良い選手を3人そろえても勝てない」と気付いたオランダは年間で約2週間ほど、パシュートの練習会を開くことにした。男子ではクラマー、ヤン・フロクハイゼン、コーウェン・フェルワイの3人を固定し欧州選手権などを戦ってきた。逆に女子は調子や相手を見てメンバーの入れ替えを行ったという。その結果が前述の男女アベックでの金メダルを獲得につながったのだ。

 そして、オランダではマイナースポーツ扱いのショートトラックも大きな進歩を果たした。10年から代表チームの指揮を執るユルン・オッターは88年カルガリー大会のリレーで金メダルを取ったこともある名選手だったが、当時のショートトラックはあくまで公開種目だった。

「スピードスケートはユースからトップまでアスリートのピラミッドが出来上がっていてうらやましい。ソチでは1つのメダル、3回の決勝進出を目標に、オランダ国民にショートトラックの魅力を知ってほしい」というオッター監督の願いに応え、男子1000メートルでシンキー・クネフトが悲願の銅メダルを獲得した。当初の目標こそ達成したものの、男子リレー決勝ではスタート直後に転倒し4位に終わった。

「ルールの上ではやり直しのはず。審判はウォッカを飲んで寝ていた。ショートトラックの世界では個人種目よりリレーの方が花形なんだ。本当に悔しい。ロッカールームは墓場のような雰囲気だった」

 今回はオランダメディアもショートトラックを大きく報じ、国民もその面白さを知ることができた。ミッションは達成したと見ていいだろう。

国内では他国のレベル低下に危機感

 スピードスケート種目に与えられた合計36個のメダルのうち、オランダが23個を奪った。今大会を総括し、かつての名スケーター、ウェネマルス氏は「オランダは1人のスターに依存せず、非常に層が厚かった。メダルを取った選手以外にもオランダにはまだ良い選手がたくさんいる」と言う。隣国ベルギーでは400メートルコースのある初めてのスケートリンクを作ろうという計画が持ち上がっているが、オランダには16もの400メートルリンクがあり、レベルの高い国内大会が盛り上がっている。

 ソチ五輪の成功はオランダにとってうれしい出来事だが、米国や日本、ノルウェーらかつての強豪国のレベルダウンに危機感も抱いている。このままでは世界におけるスピードスケートの人気が下がり、極端な話だが、五輪種目として成立しなくなるかもしれない。テレビ番組では指導者たちがこう語り合った。

「オランダ成功の秘密はただひとつ、ハードワークだ。私は他国のレベル低下にショックを受けた。NOCNSFは練習の映像を常に撮って滑りの分析を行っている」(フェルトマン氏)

「外国はあまりに五輪にフォーカスし過ぎ、その間の練習や試合が足りない。国内の大会は本当に重要。オランダは毎年そこで結果を出さないといけない。それが選手の成長を促す」(リッツマ氏)

「ソチ五輪は外国の指導者へのウェークアップ・コールだ。彼らは目を覚まさないといけない。ムルダー兄弟はもうワールドカップに向けて練習を始めているよ」(ヘルスマン氏)

 オランダの一人勝ち。それは誇らしくあり偉業でもあるが、競技の普及やレベルのことを考えると喜んでばかりもいられない。ノウハウのシェアは積極的にすべきだという声は多い。環境や指導者に恵まれないアスリートのために、すでにオランダはドイツに外国人向けのクラブを作っている。外国の指導者たちよ、目を覚ませ――オランダ人はそう願っている。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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