スケート大国・オランダが鳴らす警鐘 着実な強化がもたらしたメダルラッシュ

中田徹

冬季五輪で過去最高のメダルを獲得

苦手としていたパシュートでも男女アベックで金メダル。オランダはスピードスケートだけで23個ものメダルを獲得した 【写真は共同】

 ソチ五輪スピードスケートの最終日となる22日(現地時間)、オランダは苦手としていたチームパシュート(団体追い抜き)を見事に克服し、男女アベックで金メダルを獲得し、有終の美を飾った。ソチ五輪でオランダが奪ったメダルの数は24。そのうち、実に23個がスピードスケートでの獲得だった。

 これまで、オランダにとって冬季五輪の最多メダル数は1998年長野大会の11個。オランダ五輪委員会(NOCNSF)のアンドレ·バウアーハウス会長は、それを3つ上回る14個のメダルを今大会に期待していたが、終わってみれば2002年シドニー夏季五輪で奪った25個に迫る勢いで数字を伸ばした。 

 スピードスケート種目の初日となった8日、オランダはエースのスヴェン・クラマーらが活躍し、男子5000メートルで1位から3位を独占。9日の女子3000メートルではイレーネ・ウーストが3大会連続(06年トリノは3000メートル、10年バンクーバーは1500メートルで獲得)となる金メダルを奪う幸先良いスタートを切った。さらに、オランダ選手団のムードを絶頂まで盛り上げ、その後のメダルラッシュに火をつけたのは10日に行われた男子500メートルだろう。

苦手の500メートルで表彰台を独占

 長身スケーターが多いオランダにとって、500メートルは不得意種目。過去に金メダリストはいない。ところがソチ五輪ではオランダ勢がレベルの高いレースで競り合い、表彰台を独占した。最終走者のヤン・ スメーケンスがフィニッシュしたとき、電光掲示板は「1位スメーケンス」を示した。だがタイムの修正によってスメーケンスは歓喜から失望の淵に落とされた。そしてミヘル・ムルダーが1位に繰り上がり、驚きの表情を見せると、双子のロナルド・ムルダーと抱き合った。

 弟のR・ムルダーも見事な滑りを見せていた。1本目を6位で終えたR・ムルダーは2本目でリスクを負ってコーナーを攻めた。その結果、順位を大きく伸ばして3位に入り、双子で同時に表彰台へ上がることとなった。

 敗北感にうちひしがれていたスメーケンスも、やがて「僕は銀を取ったんだ」と勝利の気持ちを取り戻した。苦手とする500メートルでの、オランダのメダル独占にテレビの実況も「歴史的なハットトリックです」と声が弾んだ。翌11日、女子500メートルで銅メダルを獲得したマーゴット・ボアーは「昨日の男子500メートルにとても影響された。ヤンの態度。ロナルドの6位から3位への頑張りにとてもインスピレーションを得た。私は銅メダルで十分。とてもうれしい」と語っている。ウイニングムードが高まったオランダのメダルラッシュは止まらなくなった。

オランダ人にとってスケートとは?

 男子1万メートルでクラマーに勝ったヨリト・ベルフスマ(オランダ)のバックグラウンドは、オランダのスケートカルチャーの一端を理解する上でも面白い。普通の人なら寒い冬の朝を嫌がるが、オランダ人は「今日は運河や湖が凍って外でスケートができるんじゃないか」と心臓の鼓動がバクバクするという。それだけスケートというスポーツは彼らにとって身近なスポーツなのだ。

 中でもオランダ北部フリースラント州の11の町を走る『エルフステーデントフト』はオランダスケート界最大のイベントだ。200キロにも及ぶマラソンスケートだが、スポーツ愛好家として名高いウィレム・アレキサンダー国王も若き頃、お忍びで参加して完走し、国中が大騒ぎになったこともある。

 ベルフスマが所属するスケートチーム、BAMは『エルフステーデントフト』に勝つことを究極の目標に掲げている。この伝統レースは五輪の日程とかぶる可能性もあったが、ベルフスマは「もし『エルフステーデントフト』が開催されたら、僕は五輪を諦めてそっちに行く」と言うほどスケート界、いやオランダ人にとっての重要な関心事なのだ。

 温暖化の影響もあり、97年を最後にこのレースは開かれてないのが残念だ。マラソンスケート集団BAMは今シーズンいっぱいで解散することを決めていたが、ベルフスマの金、そして同じくBAMに所属する38歳のボブ・デ・ヨングが1万メートルで銅メダルを取ったことで存続を再検討することにしている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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