ジーターはなぜ開幕前に引退表明したか 会見は“終わりの始まり”

杉浦大介

優勝争いを義務づけられたヤンキースの一歩

ジーターの会見に聞き入る黒田(左)と田中。田中にとってジーターと接するのは1年間だけだが、きっと多くのことを学ぶだろう 【Getty Images】

「今年は毎日を楽しみたい。キャリアを通じて、いつも次の目標に到達することばかりを考えてきたから、楽しむことは簡単ではなかったんだ」

 ジーターはそうも語ったが、本当に“毎日を楽しむ”ためにはチームが勝たなければいけない。ニューヨークのような場所で負け続ければ、1年目だろうが、最終年だろうが、そのシーズンが楽しくなるはずがない。
 総額約5億ドル(約500億円)をつぎ込んで田中将大、カルロス・ベルトラン、ジャコビー・エルズベリーらをFAで獲得した時点で、2014年はヤンキースにとって絶対に負けられない必勝のシーズンとなった。“悪の帝国”はかつての注目度を取り戻し、重圧の中で再スタートを切る。そして、そのシーズンに、負けられない理由がここでもう1つ加わったことにもなる。

「偉大な選手と、今年限りですけど、1年でも一緒にやれるというのは幸せなことだなと思います」
 ジーターと出会って間もない田中の言葉からは、まだ大先輩を語ることへの遠慮が感じられた。だが、今年1年をともに過ごす間に、日本のエースもニューヨークのキャプテンから多くを学ぶことになるのかもしれない。

“勝利の使者”と呼ばれ続けて来たジーターは、引退発表会見の最中ですらも、チームを気遣うキャプテンシーを示してくれた。
 その根底にあるのは、おそらくはいまだに衰えない勝利への渇望。そんな思いにチームメートたちも応え、2014年、ヤンキースはキャプテンとともに勝利の花道を歩んでいけるかどうか。そして、足首の故障明けのジーターも、少なからずチームに貢献して有終の美を飾れるか。
 19日の記者会見は、1990年以降のメジャーリーグを支えて来た名遊撃手にとっての“終わりの始まり”。それと同時に、優勝争いを義務づけられた2014年版ヤンキースが、第一歩を踏み出した瞬間であったようにも思えた。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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