笑顔なき終戦、世界との差を縮めるために=5戦全敗のスマイルジャパンを総括
日本はドイツに2−3で敗れ5戦全敗。世界には近づいたが、それでもまだ埋められない差があった 【Getty Images】
元女子日本代表監督で、女子チームの強豪SEIBUプリンセスラビッツを率いる八反田孝行監督が、ソチ五輪でのスマイルジャパンの戦いを総括する。
未熟な試合運び、パワープレーも生かせず
まずはペナルティーが多すぎました。そのほとんどが防げたもので、ちょっとした気の緩みからくるものでした。それも自分たちのペースで試合が進んでいる、波に乗れそうだ、というときにペナルティーを犯し、キルプレー(数的不利)から失点した場面が何度も見られました。最後のドイツ戦もそうです。今大会16失点のうち7失点がキルプレー時に喫したものでした。
パワープレー(数的有利)で1点も挙げられなかったことも響きました。戦前から、GKを除く5対5で日本が得点を奪うのは難しいと見ていただけに、パワープレーが鍵になると思っていましたが、そこで得点できないとなると勝利は遠いです。キルプレーで失点しない、パワープレーで得点する。この当たり前のことができませんでした。
日本の持ち味であるハードワークは随所に見られたと思います。ただ、継続性に欠けていました。ハードワークはしているけど、ふとしたことで集中力を失って反則、そこからキルプレーで失点という悪循環に陥る。先ほども話しましたが、そうやって自分たちの流れを失い、勝機を逃してしまいました。ハードワークはしているけど、1試合を通しての継続性がなく、ムラがある。その隙を突かれた格好です。
技術的な課題としては、パワーを伴ったスピードが不足していました。自由に走れれば日本は速いけれど、相手に抑えられたとき、遮られたときに、それを跳ねのけて進む力が足りませんでした。あとは1対1の競り合い、パックの奪い合いでもスキルアップ、パワーアップが求められます。持ち味のスピードを生かした戦術という方向性はいいと思いますが、局面での戦いに勝たなければチームとして機能しません。当然のことながら、世界で勝つには個々の向上が必要不可欠です。
4年後よりもまずは世界選手権で上位に
ただ、それも決して難しいこととは思っていません。敗れはしましたが、監督や選手は手応えもつかんだはずです。スマイルジャパンの戦いをテレビで見ていた国内の選手やアイスホッケー関係者も皆、何が通用して、何が足りないか分かったと思います。そこを収穫と考えれば、下を向く必要はありません。
監督や選手たちはメダルを目標に掲げていましたが、現実的には5・6位を狙って次の平昌(ピョンチャン)五輪につながる戦いができればと期待していました。それに対しては、もう少し工夫すれば、もう少し力をつければ、という条件付きながらも、手が届くところまで来たと思います。
ここから先、世界にさらに近づくためには、今回の五輪で経験したレベルの試合を数多くこなすことでしょう。日々の練習や国内合宿でスキルアップを図ることはもちろん大切ですが、強豪との実戦に勝るトレーニングはありません。何物にも代え難い経験を重ねることで成長は加速します。費用やスケジュールなどの事情はありますが、可能な限りの強化を進めてほしいですね。
世間では4年に一度の五輪がクローズアップされますが、まずは世界選手権で上位に食い込んでランキングを上げていくことが先決です。次の五輪予選にも直結する問題ですから、今の10位から着実にステップアップしなければ。そして今回対戦したロシア、ドイツなどにはしっかり勝てるチームになること。いきなり4年後と飛躍するよりも、目の前の壁を1つ1つクリアしていくことが、世界との差を縮める王道であり、遠いようでいて最も近い道なのだと思います。
<了>
八反田孝行
SEIBUプリンセスラビッツ(旧国土計画・コクドレディース)監督。現役引退後、同クラブのコーチ、監督を歴任し、全日本選手権優勝5回、準優勝10回に導く。2012年には第1回女子日本アイスホッケーリーグ初代王者に輝いた。13年は連覇を達成。日本代表では92年からコーチを務め、98年長野五輪を経験。99年に監督に就任すると、アジア大会、世界選手権などの国際大会でチームを率いた。02年ソルトレークシティー五輪出場を懸けた予選で敗退し、代表監督の座から退いた。
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