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自然体のテイクオフ、運を味方につけたジャンプ
船木和喜が葛西の銀メダルを解説
銀メダルを獲得し祝福される葛西(左)
銀メダルを獲得し祝福される葛西(左)【写真は共同】

 ソチ冬季五輪のノルディックスキー男子ジャンプのラージヒル決勝が現地時間15日に行われ、日本選手団の主将・葛西紀明(土屋ホーム)が277.4点(1本目=139.0メートル/140.6点、2本目=133.5メートル/136.8点)で銀メダルを獲得した。

 日本ジャンプ陣のメダルは1998年長野五輪以来、4大会ぶり。葛西は94年リレハンメル五輪の団体で銀メダルを獲得したが、個人では初めて。冬季五輪の日本勢最年長メダリストとなった。


 41歳の“レジェンド”葛西が成し遂げた偉業について、かつての盟友であり、長野五輪でジャンプ金メダルに輝いた船木和喜さんに聞いた。

2本目のスタートリストに異変、ライバルが脱落

――葛西選手が銀メダルを獲得しました。その勝因は?


 ジャンプの質、風の条件も良かったです。風に対する技術の高さも発揮できていました。総じて言えるのは、運を味方につけたことだと思います。そのひとつは自然条件、つまり風の条件。世界ランキングでトップ10に入る選手のうち数人が2本目に進めなかったのですが、その理由は、強烈な風あるいは横風に見舞われた上、ゲートが下がって飛距離が出なかったからです。


 これにより、1本目の順位が反映される2本目のスタートリストは少し変わりました。世界ランクでトップ3の選手はさすがに上位につけていましたが、それ以外の選手は1本目に10位以内に入れず、2本目は早い段階で飛ぶことになりました。つまり、本来メダル争いが繰り広げられる上位10人の中に、世界ランクでは格下の選手が入っていたのです。これはラッキーだったと思います。


 それもあって、2本目は緊張することなくリラックスして飛べたのでは、と推測できます。もちろん、本人に聞かないと本当のところは分からないですが。トップ10に入る選手は誰が優勝してもおかしくないほど、実力が拮抗(きっこう)しています。その選手たちが自然条件に対応できなかったことは、葛西選手が2本目を迎えるにあたって精神的にもプラスに働いたと思います。


 そんな中、葛西選手は1本目、2本目ともウィンドファクター(風の条件でもらえる得点)が−1.6でした。これは有利な向かい風を受けていたことの表れで、飛距離を伸ばしました。運も味方につけた大ジャンプだったと思います。金メダルのカミル・ストッフ(ポーランド)選手は278.7点(1本目=139.0メートル/143.4点、2本目=132.5メートル/135.3点)でしたが、飛距離だけを見れば葛西選手の方が上回っていました。

滑らかで大きなジャンプ、完成度は高い

――ジャンプの技術的に良かった点は?


 ノーマルヒルに比べてタイミングの遅れがありませんでした。攻めの姿勢というより、ワールドカップ(W杯)で転戦しているときと同様に、力みなく、自然体でテイクオフができていたと思います。ノーマルヒルでは、スキー板が空中に出た瞬間、バラついていました。それがまったくなく、すんなり板が上がって自然と前傾姿勢になっていました。板が上がるスピードと前傾するスピードが一致し、板と体が一緒に飛び出していく形でした。しかもスキー板がブレていない。すごく滑らかで大きなジャンプに見えました。


 葛西選手はノーマルヒルよりもラージヒルの方が得意と話しているので、良さが発揮されたのだと思います。W杯はラージヒルで行われており、葛西選手はそのポイントが加算される世界ランクで3位につけています。つまり、W杯で飛んでいるのと同じ大きさのジャンプ台で、いつも通りに飛べたと言えますね。ジャンプ台での感覚もラージヒルに慣れているので、スタートゲートから見た視覚による判断、空中に出てからの動き、そのすべてが良かったですね。ジャンプの完成度はすごく高かったです。


――金メダルと銀メダルを分けた差はどこにあるのでしょう?


 正直、ストッフ選手とは力の差があると思います。実は、ストッフ選手は少しジャンプを失敗していたのです。空中に出てからスキー板をつけて、離して、つけて、とタイムロスがありました。それにもかかわらず、あの距離を飛べたのはすごい。もし良いジャンプができていたら、もっと点差を離されていたかもしれません。さすがは世界ランク1位です。ただ、飛距離では葛西選手が勝っているので、風の条件などを度外視して、単純に遠くへ飛ぶこと、とシンプルに考えれば、一番いいジャンプをしたと思います。

“現役の船木”としてはすごく悔しいが……

――かつての盟友の活躍を受けて思うことは? 日本ジャンプ陣にとっては16年ぶりのメダルです


 近年の実績からすれば、メダルを取っても不思議ではないですね。“現役の船木”として言うと、すごく悔しい思いはありますよ。自分が出られなかった五輪ですから。でも、ジャンプ界だけでなく、スポーツ界全体にとっては大きいことです。40代になっても、世界とこうして戦えるというメッセージを発信したと思います。私自身も刺激を受けましたし、「やればできるんだ」ということも感じさせられました。


 メダルを取ったことで、周りの選手たちは身近な目標が設定できました。そうすると追いつけ、追い越せと切磋琢磨(せっさたくま)して、日本国内のレベルが上がっていきます。子供たちにも夢を与えたと思います。これをきっかけに、ジャンプの競技人口が増えるかもしれません。今後はメダリストとして、好影響を与えるような活動をしてほしいですね。私の場合、もう16年前ですから、今の子供たちは当時のことを知らないんですよ。今回のメダル獲得で葛西選手に憧れる子供たちが出てくると思います。彼らが夢を描いて進めるように、力になってほしいですね。これはジャンプ界全体が望んでいることだと思います。


――18日(日本時間)には団体戦が行われます


 今回のラージヒルでは葛西選手以外に、9位に伊東大貴選手(雪印メグミルク)、10位に清水礼留飛選手(雪印メグミルク)が入り、竹内択選手(北野建設)も13位でした。トップ10に3人が入った国はほかにありません。このままいけば日本は金メダルを狙えます。ノーマルヒルではオーストリアが上位に複数人入りましたが、団体戦はラージヒルですから、今回の個人戦での各選手の好調は頼もしいですね。長野五輪以来の金メダルも期待できると思います。


<了>


船木和喜

1975年4月27日、北海道生まれ。98年長野五輪に出場し、個人ラージヒル、団体ラージヒルで2つの金メダル、個人ノーマルヒルで銀メダルを獲得した。世界選手権、スキーフライング世界選手権、スキージャンプ・ワールドカップなどでも数々のタイトルを獲得。低く鋭い踏み切りから繰り出されるジャンプフォームは「世界一美しい」と称された。現在も現役を続けながら、後進の指導にもあたっている。

構成:スポーツナビ

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

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