羽生vs.チャン!? 金メダル争いの鍵は“ミス”=澤田亜紀のフィギュア男子SP解説

構成:スポーツナビ

高橋大輔、4回転にミスも柔らかな表情のワケ

男子SPの演技を終えた高橋大輔=ソチ 【共同】

 最初の4回転トゥループは両足着氷気味になって、慎重にいったかと思いましたが、ジャンプを下りて振り返ったときの顔つきが柔らかく変わっていました。その後はいつもどおりの高橋選手でした。失敗はしましたが、その原因やFSへの良い感触を何かつかめたんじゃないかと思います。失敗したときの顔ってもっと違いますから。

 後半の3回転ルッツ−3回転トゥループも真っすぐに入って、高さもあって良かったです。もしケガ(右脚すね)の影響が出るとしたらルッツじゃないかと思っていたのですが心配なさそうでしたね。

 足への負担はジャンプから下りてくるときよりも、跳び上がるときの方があります。4回転は、右脚で跳び上がって左足のつま先で体を押し上げるような「トゥループ」で跳んでいるのですが、右脚に力がかっている時間はそんなに長くないんです。でも「ルッツ」は3回転ですが、左足の外側で踏み切りながら、右足のつま先で体を押し上げるジャンプで、最後まで体重が乗っているのは右脚なんです。だから負担がかかる可能性があった。でもSPのジャンプを見た印象ですと、ケガの影響はなさそうでしたね。

町田、団体戦が影響? FSでは「宇宙へ」!

 後半のトリプルルッツのミスは珍しかったですね。自信があるジャンプだからこそ(得点が1.1倍になる)演技後半に入れているんだと思いますが。ルッツは、町田選手のSP曲の一番盛り上がるところに入るジャンプだったと思います。もしかしたらそこに合わせようとし過ぎて、そうするためにちょっとしたズレがあったのかも知れませんね。

 町田選手も集中していたとは思いますし、冒頭の4回転、トリプルアクセルもきれいに決まっていましたが、ホッとしたところがあったのかもしれません。団体戦に出ていましたが、FSをやってからの個人戦で少し時間が足りなかった。試合に出ると、1週間休んでの試合でもキツいんです。SPで2分50秒、FSで4分30秒(男子、前後10秒以内)にどれだけのことを詰め込むか、そのために毎日選手は練習しています。一度試合に出るということは、体力的にも精神的にもその貯金を下ろすということです。その貯金をするためには、時間が掛かります。

 町田選手とは同じ関大の1学年違いなのですが、普段からヘコんでいるような姿はあまり見ません。自分が次に目指すところに向かって、淡々と課題を見つけてクリアしているような印象です。気持ちの切り替えについても、今回のようにFSをやってからSPという試合は普段は行いませんが、SPとFSを2日連続でやることには慣れているので大丈夫だと思います。町田選手が団体戦の後に「聖火とともに宇宙まで飛んでいけたら」と言っていましたが、“宇宙まで飛び立って”くれると思います(笑)。

フリーでのメダル争いへ

 SPでの得点を見ると、羽生選手とチャン選手がひとつリードしました。さらに3位のハビエル・フェルナンデス選手(スペイン)から11位の町田選手までがわずか3.5点差の間にひしめき合っています。金メダル争いも、表彰台争いも、ミスをするかしないか。した方が負けるという展開になると思います。SPでも羽生選手とチャン選手の差は、チャン選手のミスでついたものだと思いますから。

 ステップアウト1つでも順位は変わる可能性はあります。ジャッジの採点基準を書いたマニュアルに、出来栄え点のプラス、マイナス評価の基準が書かれていて、ステップアウトをした場合、片手をついた場合、空中姿勢が悪い場合などそれぞれ目安があるので。もちろんプラスの基準もありますよ。

 また羽生選手とチャン選手が3位以下に差をつけてはいますが、フェルナンデス選手も4回転を3本入れる構成を持っています。SPではややスピードがありませんでしたが、カナダで一緒に練習する羽生選手のすごい得点が出た直後の滑走順で少し小さい演技になってしまったのかもしれません。でも欧州選手権で優勝して自信もつけていると思うので、FSでは切り替えてくるのではないかと思います。

 フランスのブライアン・ジュベール選手も、かつて1試合で3本の4回転ジャンプを跳んだことがあります。私もその試合に出ていて見ましたが驚きました。ジュベール選手はなぜか五輪で調子が悪いのですが、世界選手権でも優勝(07年)してすごい選手なんです。4回転を決めていけばメダル争いに食い込んでくるかもしれません。

 それから男子のフリーは8回までジャンプを入れられて、そのうち3つは連続ジャンプが可能、さらにその連続ジャンプのうち1つは3連続が入れられます。つまり最大で12個のジャンプが跳べます。それを最大限に使ってくる人がメダルに絡んでくるのではないでしょうか。町田選手も11位とはいえ、メダルを狙える位置にいます。町田選手らしく、攻めて、攻めて、攻めていくと思います。

<了>

澤田亜紀/Aki Sawada

1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では優勝1回を含め、6度表彰台に立った。シニアでは2004年全日本選手権で、安藤美姫、浅田真央、村主章枝に次ぐ4位に入り、07年四大陸選手権でも4位の成績を残した。5つの3回転ジャンプを跳ぶなど力強いジャンプが持ち味。トレードマークとも言える、氷上での明るい笑顔も人気を呼んだ。11年に現役の第一線を退き、現在は関大を拠点にコーチとして活動している。

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