羽生結弦、史上初100点超えの“衝撃” 金メダルへ視界良好、積極性貫く
世界歴代最高101.45点
101.45の高得点でSP首位に立った羽生。それでも満足はせず「課題が多く見つかった」と語る 【写真は共同】
「3桁の点数が出るとは思っていなかったので、五輪という素晴らしい舞台で100点を超える演技ができたということを本当にうれしく思います」
演技後、羽生は笑顔でそう語った。ソチ五輪のフィギュアスケート男子ショートプログラムが現地時間2月13日に行われ、羽生が2位のパトリック・チャン(カナダ)に3.93点の差をつけ、首位に立った。日本人選手が五輪のSPを1位で折り返すのは初めてのことになる。
19番滑走で登場した羽生は、冒頭の4回転トゥループを力強く跳び切ると、トリプルアクセルも危なげなく着氷。トリプルルッツ+トリプルトゥループのコンビネーションもきれいに決めた。スピンで1つレベルを落としたものの技術点54.84点、ファイブコンポーネンツもすべて9点台と圧巻の演技を披露した。
それでも羽生は満足していない。
「良い演技をすることができたと思いますが、これが僕のベストではないと思っています。まだまだできた部分もあるはずですし、五輪だけじゃなく、このあとには世界選手権もある。課題も多く見つかったと思います」
好調さの裏で感じていた不安
「団体戦で良かったからこそ、少しピークが早く来てしまったかなと思ったんです。この1週間の練習でもあまり状態は良くないと感じていました」
とはいえ、これは4年前のバンクーバー五輪でキム・ヨナ(韓国)を金メダルに導いたブライアン・オーサーコーチの作戦。団体戦と個人戦の間に一度調子を落とし、再び上げていく算段だった。個人戦が近づくにつれ、練習でも安定感が戻ってきており、「すごく精神状態が上がっている」と羽生も手応えを感じてはいた。それでも不安に思っていたのは、やはり夢にまで見た五輪という舞台だからだろう。
そのため羽生はなんとかして前向きな気持ちを持つように意識した。不安なことが頭をよぎっても、それをなるべく排除した。そうしたメンタルコントロールができるようになったのは、グランプリファイナルや全日本選手権というプレッシャーがかかる舞台で経験を積み重ねたこと、そして自身が最も意識する相手、チャンとの戦いを繰り返してきたからだ。羽生は「自分のペースというのをパトリックと何度も対戦することで、コントロールできるようになってきました。昔はどうしても相手を意識してしまい、自分に集中できなかった。でも今は自分ができることを精いっぱいやることが結果につながると思っていますし、やるべきことをやっていくだけだと考えられるようになりました」と、自身の変化を語る。
もちろんオーサーコーチの存在も大きい。1988年のカルガリー五輪で選手としても銀メダルを獲得した名伯楽は、この大舞台の怖さを嫌というほど知り尽くす。だからこそ羽生は安心して身を委ねている。そのオーサーコーチは、この日の羽生の演技を「パーフェクト」と評した。
「素晴らしい演技だったし、質も文句がない。100点超えは期待していた。これまで積み上げてきたトレーニングを信じていたからね」
FSではさらなる衝撃も
「団体戦では89点だったので、今日は97点が出せて良かったと思う。2位ということは気にしていない。僕は追いかけるのが好きだからね。ユヅルがターゲットになるし、FSでは五輪を楽しめると思っている。五輪でこうした目標となる存在がいるのは大きいよ」
羽生はすでにFSの滑りを見据えていた。「今日は今日でもう終わったこと。このあとはしっかり休みたいと思います。明日は明日でやるべきことをやっていきたいです」。プログラムについても演技構成を変えることはしないつもりだ。この点差を保つためには今季成功率が低い4回転サルコウをFSで回避する選択肢はあるが、羽生はこれを真っ向から否定する。
「今シーズンを通して4回転ジャンプは2種類入れてきたので、明日もしっかりと入れたいと思います。別に五輪だからといって変えることはしないで、自分がやりたいことをやって、やるべきことをやりたいなと思っています」
19歳の羽生にとって今大会はあくまで通過点。今後も続いていくスケート人生を考えて、メダルを取るために“守りの姿勢”に入りたくはないのだろう。その積極性がここまでの成長を遂げた要因とも言える。100点超えという目標は達成した。現在の状態であればFSではさらなる衝撃が待っているかもしれない。
<了>
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)
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