バレー界初の挑戦はあっけない幕切れ 埋まらなかった外国人監督と協会の溝
現場に変貌の兆しが見えていたが
パナソニックで数々のタイトルを獲得するなど、国内では比類ない実績を誇る南部監督 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
スピードのあるトスに合わせて動きを小さくするのではなく、十分に助走を取り、クイックも大きなスイングで打つ。サーブレシーブは最初に足から動かして正面で受けるのではなく、無駄な動きは極力抑えて手の位置をボールに合わせる。
単純な作業のように思えるが、高校や大学、もっとさかのぼれば小学校の頃から「当たり前」として習ってきたことに反することは多く、戸惑う選手も少なくなかった。
サトウ監督が示してきたものは、すべて世界では「当たり前」の知識であり、決して特別なことではない。しかし海外リーグでプレーする選手もほとんどいない、国際試合も限られた数しかない日本選手には、その「当たり前」を知る機会がない。
グラチャンを5戦全敗で終えた後、米山裕太はこう言った。
「世界の本当のトップ選手が打つジャンプサーブを体の正面で受けて、尻もちをついたり、倒れてしまったら、その分攻撃枚数が減る。そうならないように、セッターに返らなくてもいいからとにかく上に上げる。すぐ次の動きに備える。ゲーリーが言ってきた“世界”はコレか、と初めて実感しました」
グラチャンの直後に開幕したVプレミアリーグでも、多くの選手がサーブレシーブは無理にセッターへ返そうとせず、真上に上げ、そこから攻撃を展開する。チャンスボールも高くフワッと返し、その間に攻撃陣が態勢を整え、複数の攻撃を同時に仕掛ける。
かつての「当たり前」から、今の世界の「当たり前」へ。監督交代は、わずかながらも確実に、変貌への兆しが見え始めた矢先のことだった。
根本的な課題とどう向き合うか
また、今後に向けての強化のポイントは「日本本来の武器である守備力が軸になる」と南部新監督は言うが、グラチャンに出場した選手たちはロシア、ブラジル、米国など身体能力でもはるかに上回る選手たちの丁寧なパス、ブロックと連動したレシーブ力、その差をまざまざと見せつけられている。
代表候補として選出される選手に限らず、すべての選手、指導者が同じ意識、基準を持って取り組まなければ、あれほどの差を埋めるに至る技術の向上は見込めない。南部新監督には世界と渡り合えるチームをつくり、戦ってほしいと言うならば、特にユース、ジュニアなど若い世代の一貫した理論と方法に基づいた育成、強化は急務だ。
16年のリオデジャネイロ五輪をステップに、20年の東京でメダル獲得を――目標だけが大きく掲げられ、桑田GMは「通り一遍の強化策では強くならない」と言うが、それがどんな策なのか。具体的には、まだ何一つ示されていない。
監督交代の正式発表を受け、ある選手が言った。
「この1年、何だったんですかね。リオに向けたスタートだったはずなのに」
選手生命が永遠ではないように、16年、そして20年までの時間には限りがある。過去の栄光でも、付け焼刃の強化、目標ではなく、根本的な課題と向き合い、今、何をすべきか。
真の改革が、求められている。
<了>