田邉草民、スペイン初得点までの長き苦闘 サバデル移籍で感じた自身の甘さと成長

工藤拓

監督解任から事態は好転

当初はスペインのリズムに適応できていなかったが、今ではプレーの成功回数が確実に増えている 【写真:MarcaMedia/アフロ】

 あのままの状況が続いていれば、冬の移籍期間に東京へ帰されていたかもしれない。実際、1月中には今季加入したばかりの3選手が戦力外通告を受けているだけに(うち2人との契約を解除)、この時期クラブが草民についても同様のことを検討していた可能性は十分にあった。

 だが移籍期間のスタートまで1カ月と迫った11月末、草民の状況を変えるきっかけが生じる。チームが3連敗目を喫した15節エルクレス戦後、クラブがハビエル・サラメロ監督を解任したのである。

 試行錯誤を繰り返すばかりでシステムやメンバー構成をいじり続けた前任者とは違い、第2監督から昇格する形で就任したミケル・オルモ新監督はシステムを4−4−2、メンバーも数試合連続で固定。さらに草民をそれまでのサイドMFではなく、2トップの一角で試しはじめた。

 これが功を奏し、チームは年内の残る4試合で3勝を挙げて降格圏からの脱出に成功。草民もタッチライン沿いの狭いスペースでボールを受けることが多いサイドとは違い、持ち前のスピードを生かしてDFライン裏へ抜け出す動きを求められた前線でのプレーにやりやすさを感じはじめる。

 何より、それまで1カ月以上もほとんどプレーできない状況下にあった草民にとって、ラスト10分前後の限られた時間ながらも、数試合続けて出場機会を得られるようになったことは大きかった。

2カ月半ぶりに巡ってきたチャンス

 12月半ば、つかの間のクリスマス休暇を前に話を聞いた際、草民はこう言っていた。

「(期限付き移籍の期間が)来年の夏まであるっていうのが、甘えじゃないけどあった。でも実際これでもし年末に帰ることになったらもう、何しに来たんだって感じになる。それで意識が変わった。まあ遅いんですけど」

 まったく試合に出られなかった時期、草民はただ練習をやるだけの日々に慣れはじめていた自身に気づき、「自分がしっかりサッカーと向き合わないと、スペインでやっていてもそんなに伸びない」と危機感を感じるようになった。

 それ以降は入団時から課題に挙げていた得点力不足を補うべく、全体練習の後に居残りでシュート練習を繰り返した。そうすると徐々に全体練習の中でもゴールが見え、シュートが入るようになっていく。試合に出られない状況は変わらないものの、日々の練習で自身の成長を実感できるようになってからは「今は毎日が充実している」と思えるようになったという。

 そんな矢先に監督交代が生じ、少しずつ出場機会を得られるようになった草民は、およそ2カ月半ぶりに先発出場のチャンスを得たレクレアティボ戦でチームを逆転勝利に導く決勝点を決めた。

 練習してきた両足のキックではなく、頭での一発だったのは皮肉な話ではあるが、この際形はどうでもいい。待ちに待ったチャンスを見事にものにしたことに変わりないからだ。

20戦無得点だった選手がここ4試合で2ゴール

 その後、草民は4戦連続で先発の座を守っている。ポジションはFWに限らず、元のサイドMFや時にチーム事情から右サイドバックに移されたりもしているが、とにかく初ゴールを決めてからは先発の座を守り続けている。

 いまだ単純なコントロールミスや判断の遅れからボールを失うところなど、改善の余地は多々ある。地元紙の記者にはフィジカルコンタクトの弱さや守備戦術の理解不足などを指摘されているし、結果を出せていないホームゲームではスタンドから飛ぶ手厳しいお叱りの言葉を耳にすることもよくある。

 それでも開幕当初と比べると強引なドリブル突破やシュートを狙う姿勢、そしてそれらのプレーが成功する回数は確実に増えてきた。

 2月1日の第24節、首位デポルティボとのアウエー戦では後半41分に左CKを頭で合わせ、今季2ゴール目を決めている。それまでの20試合で無得点だった男が4試合で2ゴール。これを成長と言わずしてなんと言おうか。

 とはいえ、それで次節の先発出場が確約されるほど絶対的な選手になったわけではない。今後も2、3試合連続で結果を出さなければ、すぐにベンチへ逆戻りしてしまうことは十分にあり得る。

 くしくも今季のスペイン2部リーグは史上空前の団子状態となっており、チームも昇格と降格、双方の可能性を残しながら戦っている。先が読めない草民とサバデルの13−14シーズンは、はたしてどんな結末が待ち受けているのだろうか。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント