田邉草民、スペイン初得点までの長き苦闘 サバデル移籍で感じた自身の甘さと成長
監督解任から事態は好転
当初はスペインのリズムに適応できていなかったが、今ではプレーの成功回数が確実に増えている 【写真:MarcaMedia/アフロ】
だが移籍期間のスタートまで1カ月と迫った11月末、草民の状況を変えるきっかけが生じる。チームが3連敗目を喫した15節エルクレス戦後、クラブがハビエル・サラメロ監督を解任したのである。
試行錯誤を繰り返すばかりでシステムやメンバー構成をいじり続けた前任者とは違い、第2監督から昇格する形で就任したミケル・オルモ新監督はシステムを4−4−2、メンバーも数試合連続で固定。さらに草民をそれまでのサイドMFではなく、2トップの一角で試しはじめた。
これが功を奏し、チームは年内の残る4試合で3勝を挙げて降格圏からの脱出に成功。草民もタッチライン沿いの狭いスペースでボールを受けることが多いサイドとは違い、持ち前のスピードを生かしてDFライン裏へ抜け出す動きを求められた前線でのプレーにやりやすさを感じはじめる。
何より、それまで1カ月以上もほとんどプレーできない状況下にあった草民にとって、ラスト10分前後の限られた時間ながらも、数試合続けて出場機会を得られるようになったことは大きかった。
2カ月半ぶりに巡ってきたチャンス
「(期限付き移籍の期間が)来年の夏まであるっていうのが、甘えじゃないけどあった。でも実際これでもし年末に帰ることになったらもう、何しに来たんだって感じになる。それで意識が変わった。まあ遅いんですけど」
まったく試合に出られなかった時期、草民はただ練習をやるだけの日々に慣れはじめていた自身に気づき、「自分がしっかりサッカーと向き合わないと、スペインでやっていてもそんなに伸びない」と危機感を感じるようになった。
それ以降は入団時から課題に挙げていた得点力不足を補うべく、全体練習の後に居残りでシュート練習を繰り返した。そうすると徐々に全体練習の中でもゴールが見え、シュートが入るようになっていく。試合に出られない状況は変わらないものの、日々の練習で自身の成長を実感できるようになってからは「今は毎日が充実している」と思えるようになったという。
そんな矢先に監督交代が生じ、少しずつ出場機会を得られるようになった草民は、およそ2カ月半ぶりに先発出場のチャンスを得たレクレアティボ戦でチームを逆転勝利に導く決勝点を決めた。
練習してきた両足のキックではなく、頭での一発だったのは皮肉な話ではあるが、この際形はどうでもいい。待ちに待ったチャンスを見事にものにしたことに変わりないからだ。
20戦無得点だった選手がここ4試合で2ゴール
いまだ単純なコントロールミスや判断の遅れからボールを失うところなど、改善の余地は多々ある。地元紙の記者にはフィジカルコンタクトの弱さや守備戦術の理解不足などを指摘されているし、結果を出せていないホームゲームではスタンドから飛ぶ手厳しいお叱りの言葉を耳にすることもよくある。
それでも開幕当初と比べると強引なドリブル突破やシュートを狙う姿勢、そしてそれらのプレーが成功する回数は確実に増えてきた。
2月1日の第24節、首位デポルティボとのアウエー戦では後半41分に左CKを頭で合わせ、今季2ゴール目を決めている。それまでの20試合で無得点だった男が4試合で2ゴール。これを成長と言わずしてなんと言おうか。
とはいえ、それで次節の先発出場が確約されるほど絶対的な選手になったわけではない。今後も2、3試合連続で結果を出さなければ、すぐにベンチへ逆戻りしてしまうことは十分にあり得る。
くしくも今季のスペイン2部リーグは史上空前の団子状態となっており、チームも昇格と降格、双方の可能性を残しながら戦っている。先が読めない草民とサバデルの13−14シーズンは、はたしてどんな結末が待ち受けているのだろうか。
<了>