高梨沙羅の強さの“ルーツ”
空港でも一心不乱に勉強 何事にも全力
ジャンプ自体はもちろん、着地姿勢の改善にも注力。飛型点の向上も目指す 【築田純】
「沙羅ちゃんはバレエを始めたときから、できないことが嫌な子でした。教えた課題を次の週には自分なりのものにしてきていました。多分、彼女はかなりの努力をしていたと思います。日ごろの繰り返しが大事なのがバレエ。最初はバレリーナとしては体が硬いタイプでしたが、開脚が徐々に開くようになっていったのは地道な鍛錬をしていた証拠ですね。バレエの世界は、ここまでできたから良いということはなくて、次はここまで引き上げるという訓練がある。芸術には頂点ということがないので、彼女にとってそういうことも魅力だったのかもしれないです。中学2年ころにジャンプが忙しくなっても、時々はレッスンに来ていましたから」
高梨は、2歳からの最初の習い事であったピアノや小学生のときに入った陸上競技のクラブを含めて、何事にも全力で取り組んできた。しかも、ジャンプのためのトレーニングをみっちりやった上でのことだということを忘れてはならない。
勉強に関してもそうだ。友だちが塾で英語力を付けたと聞くと自分も負けじと通うようになった。どこにでも必ず勉強道具を持ち歩き、コーチの1人は以前に「遠征帰りの空港の乗り継ぎ時間にも普通なら疲れてぐったりするのに、一心不乱に教科書とにらめっこしていた」と、時間を無駄にしないストイックさに驚嘆していた。そうした努力のおかげで、15歳だった高校1年時には高校卒業程度認定試験(旧大学入試検定)をパスしたほどなのだ。
勉強に力を注ぐのは、ジャンプ選手を引退した後の人生設計もしっかり念頭に置いているからでもある。中学3年のときには、将来の夢として「中学校の体育の先生になりたい。だから、教員免許を取得できる課程を修了しなければならないことも考えています」と語っていた。高梨は小さい子の面倒を見るのが好きだそうだから、ピッタリの職業だろう。「技術の先生もいいかな。ハンダごてが得意なので。よく女の子っぽくないと言われます(笑)」と補足したのはご愛嬌だ。
意識の高さと鋼の向上心
札幌大会は2日連続で優勝。ソチへ向けての順調に歩みを重ねている 【築田純】
そんなことを踏まえて、冒頭の地元関係者が続ける。「例えばね。まだジャンプを始める前の小学1年のとき、いつもお兄ちゃんの試合に親と一緒に付いて行くんだけど、ときにはジャンプ台まで応援に行かずに1人でコテージの部屋で留守番をする。普通ならさみしいし当然みんなに付いて行くよね。でも、彼女は小学1年にして自分の意思で1日の計画を立て、勉強などほかにやるべきことがある場合には、『今日は行かないから』と判断をするんだ」
凡人には到底まねのできない努力家気質を表すエピソードの数々。以前に高梨に「バレエではなく、ジャンプを選んだんだね」と聞いたとき、「はい。ジャンプが面白い」と即答しつつ、「うーん、でもジャンプをやりながらバレエもできるんですよね。ピアノはピアノがないとできないけど、バレエはシューズさえ持ち歩けばどこでもできるから」という言葉を口にしている。あらためて、軽いユーモアにまぶされながらも高梨がどんな考えで行動しているのか、いかに意識が高いかがうかがえる言葉だと思えてくる。日本がソチに送り出す金メダル候補は、17歳とは思えない鋼の向上心を持っていた。世界をリードするが故の重圧は計り知れないけれども、だからこそ、それに打ち勝って、夢の舞台で最高の結果を出すことを願わずにはいられない。
<了>
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