安楽智大、右肘の逆境を力に変えて――夏の全国制覇、その先の夢へ始動!

寺下友徳

動き出した今年のドラフトの目玉

今秋ドラフトの目玉と称される済美高・安楽が始動。104日ぶりにキャッチボールを行った 【寺下友徳】

 1月4日15時37分。愛媛県松山市郊外にある済美球技場。地元地方紙、全国スポーツ紙、スポーツ雑誌、地元・全国テレビ局計10社と、東北楽天・阪神・北海道日本ハム3球団のスカウトが見つめる前で、ユニホーム姿の安楽智大が始動した。決して全力投球ではないが、腕をしっかり振り1球1球、回転と伸びに気を遣った本格的キャッチボール。昨年9月22日以来、104日ぶりに大きく翼を開いた。それはまるで最速157キロ、今季ドラフトの目玉と呼ばれる豪腕が、失っていた感覚を呼び起こす通過儀礼のようであった――。

 昨春のセンバツ大会では計772球の熱投で済美を準優勝に導く活躍をした安楽は、夏の愛媛大会準決勝、川之江戦での最速157キロを筆頭に、常時145キロ以上をマークする豪腕ぶりを発揮した。甲子園では春とは異なる雰囲気に自らのペースをつかめぬまま、3回戦敗退となったが、続く18U野球W杯では松井裕樹(桐光学園高→東北楽天ドラフト1位)とともに日本代表のエースとして君臨。森友哉(大阪桐蔭→埼玉西武ドラフト1位)のリードに導かれ、スライダーを有効に使っての2試合完封勝利含む18回無失点で、大会最優秀先発投手にも選出された。準優勝メダルと「勝てる投球を学ばせてもらった」代表でのエッセンスを手に、今度は主将として済美での2年連続センバツ出場へ挑んだ。

豪腕を襲った試練

昨年9月22日の愛媛県大会1回戦、安楽にアクシデントが…… 【寺下友徳】

 9月14、16日に開催された中予地区予選、初戦の済美平成戦では「高橋光成(前橋育英高2年)から教えてもらった」フォークを織り交ぜ6回1安打14奪三振、代表決定戦となった松山北戦では一転、「しっかり低めに投げることを心がけた」ストレート中心の投球で5回参考ながら1四球、5奪三振でのノーヒットノーラン。滑り出しは順調だった。

 ところが中5日を経て迎えた9月22日、愛媛県大会1回戦。投球練習時から「右肘がつるような感覚があった。野球生活で初めての感覚」に襲われた安楽は西条打線の餌食となる。初回に3連打で2点を失うと、3回表も安打と失策に続き、これまでの彼であれば考えられない抜け球での死球。この時点で右翼に退かざるを得なかった。

 それでも最終回には夏の甲子園3回戦、花巻東戦の3ランを彷彿とさせる豪快な2ランで追いすがった安楽であったが、2対4で敗れ、センバツの夢は露と消えた。翌日、肘を検査した安楽に下った診断は「右腕尺骨神経まひ」。1年夏、愛媛大会からの公式戦登板36試合で計3513球を投じてきた豪腕にとって最大の試練が、ここから始まった。

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著者プロフィール

1971年、福井県生まれの東京都東村山市育ち。國學院久我山高→亜細亜大と進学した学生時代は「応援道」に没頭し、就職後は種々雑多な職歴を経験。2004年からは本格的に執筆活動を開始し、07年2月からは関東から愛媛県松山市に居を移し四国のスポーツを追及する。高校野球関連では「野球太郎」、「ホームラン」を中心に寄稿。

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