松本山雅が最終節で経験したこと=J2漫遊記 信州ダービーその後<前編>

宇都宮徹壱

反町監督が語る2年目のJ2での戦い

松本山雅FCの反町康治監督。愛媛との最終節を「大きな財産になった」と語る 【宇都宮徹壱】

 2013年12月10日、今季のJリーグを締めくくる一大イベント、Jリーグアウォーズが横浜アリーナで賑々しく開催された。もっとも、アウォーズでスポットライトを浴びるのは、基本的にJ1クラブとその選手や監督のみ。各J2クラブから1名ずつ選手を選出し、その中から来場者の投票によって今季最も活躍したJ2所属選手を決定する「J2 Most Exciting Player」という部門もあるにはあるが、今年はガンバ大阪の遠藤保仁が受賞とあって、正直「J2らしさ」はあまり感じられなかった。

 そんな中、13年は4つのJ2クラブがフェアプレー賞を獲得したのはうれしいトピックスだった。すなわちG大阪(反則ポイント15)、松本山雅FC(同31)、ヴィッセル神戸(同31)、そしてファジアーノ岡山(同40)。これは過去最多である(ちなみに昨年は、J2クラブからのフェアプレー賞該当クラブはなかった)。今季、1位と2位でフィニッシュしたG大阪と神戸は、戦力面だけでなく反則ポイントの少なさでも際立っていた(ちなみにG大阪は今季の退場者はゼロ)。その一方で、この2チームに戦力的には大きく水を開けられながらもフェアプレー賞を受賞し、なおかつJ2昇格2年目で7位という成績を収めた松本は、もっと評価されて良いように思う。

 では当事者たちは、この7位という成績をどう見るのだろう。J2デビューの昨シーズンが12位だったことを思えば、十分に満足できる順位であったと言える。とはいえ、5位のジェフユナイテッド千葉、そして6位のV・ファーレン長崎と66ポイントで並びながら、得失点差でJ1昇格プレーオフ出場権を逃してしまったのも、また事実。その点について、チームを率いる反町康治監督はどうとらえているのか。アウォーズ開幕直前の慌ただしい雰囲気の中、タキシード姿の指揮官に話を聞いてみた。

「今季は失点が多かったね。ウチは千葉のケンペス(今季J2得点王)みたいな選手はいないし、人数をかけて攻めに行くコンセプトでやってきたけれど、どうしても失点を上回るだけの得点を挙げられなかったのが問題(編注:得点54/失点54)。それと、ストロングポイントを前面に出して、ウィークポイントを隠しながら戦うのには、やっぱり限界があるよね。J2では通用しても、もし(現状の戦力で)J1に行ったら、今季の大分トリニータよりも残念な状態になっていたと思う。ただまあ……」

 そう言葉を切ってから、反町監督は最終節の異様な熱気と緊張感を思い出すように、こう言葉をつないだ。

「最後の愛媛FC戦は、引き分けでもダメという本当に厳しい試合だったからね。それを経験できたのは、選手としてもクラブとしても大きな財産になったとは思いますよ」

他力ながらプレーオフ進出の可能性を残す松本

松本山雅FCの大月弘士社長は、他力でもプレーオフ進出の可能性を最後まで信じた 【宇都宮徹壱】

 13年のJ2はトップリーグに負けないくらい、さまざまな話題で盛り上がった。G大阪のアウエー戦で軒並み1万人以上の観客が集まった「ガンバノミクス」現象、「ベトナムの英雄」レ・コン・ビンのコンサドーレ札幌入団、そして四国勢初となる徳島ヴォルティスのJ1昇格、などなど。そんな中、今季一番の話題といえば、やはり11月24日の最終節における、プレーオフ進出を懸けた悲喜こもごもであったと言えるのではないか。

 第41節を終えた時点で、G大阪と神戸の自動昇格、そして3位京都サンガFCのプレーオフ進出が決まっていた。そして残り3枠を巡って、4位千葉、5位長崎、6位徳島、7位松本、8位札幌までが、プレーオフ進出の可能性を残していたのである。当該クラブのサポーターはもちろん、それ以外のサッカーファンをも巻き込み、今季のJ2最終節は昨年以上に大いに盛り上がった。そこで今季最後のJ2漫遊記は「特別編」として、このJ2最終節の中から、松本平広域公園総合球技場(通称、アルウィン)での松本対愛媛の試合を、当事者たちの言葉を拾いながらフォーカスすることにしたい。まずは松本の代表取締役社長、大月弘士の回想から。

「第40節の山形戦(2−3)で、せめて引き分けていれば、もう少しいい展開で最終節を迎えられたんですが。しかも相手は愛媛。うちは四国勢に弱いんですよ。徳島にも愛媛にも、Jでは一度も勝っていなかった。JFL時代も(カマタマーレ)讃岐は苦手としていましたから。ただし11年のJFLでも、最終節は他力の状態でしたが、ウチがホンダロックに勝利して、5位の長崎が栃木ウーヴァに敗れたことで、何とか(J2昇格条件の)4位に滑り込むことができました。今回もそういう奇跡が起こるのではないかという、密かな期待はありました」

 この日の集客は1万6885人で、今季2番目。G大阪戦の1万7148人には及ばなかったものの、サポーターの出足はいつも以上に早く、シーズンチケットを持たない待機列はなかなか途切れなかったという。スタンドの様子について教えてくれたのは、仲間内で「シンさん」と呼ばれる、地域リーグ時代からの古参サポーターだ。

「確かに入場者数は今季2番目でしたけど、愛媛のサポーターはそんなに多くなかったから、地元の人の数で言えば今季最も多かったと思います。雰囲気ですか? 『絶対、プレーオフに行くぞ!』という感じの人もいれば、『まあ、そんなに意気込まなくても』って感じの人もいて、いろいろでしたね。ただ、みんな他力であることは感じていて、とにかく目の前の試合に集中していました」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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