「すごく充実した時期を過ごせている」=フィギュア織田信成インタビュー・前編
柔らかな笑みを浮かべ取材に応じる織田。「すごく充実した時期を過ごせている」という言葉通り、今季は好調を維持している 【スポーツナビ】
技術面、精神面ともに良くなっている
NHK杯では自身も満足の滑りを披露。2位に入り、会場に詰め掛けたファンから大きな歓声を浴びた 【坂本清】
スケートカナダのときは思うように滑ることはできなかったんですけど、NHK杯はショートプログラム(SP)もフリースケーティング(FS)もこういう滑りがしたいなと思っていた滑りができました。日本のお客さんの前でそういう滑りができたのはうれしかったですね。昨シーズンと比べても、技術面も精神面もちょっとずつ良くなっているかと思います。
――5年ぶりのNHK杯で、すごく歓声も多かったと思います。滑ってみて、それはすごく感じましたか?
本当に久しぶりの日本での国際大会で、僕自身もNHK杯はすごく好きな大会ですし、わくわくしていたんですけど、いざ本番になると緊張や不安はありました。でも本当にお客さんの声援や「がんばれ」という言葉が後押ししてくれたなかで滑ることができたので「幸せだな」と思いました。
――SPでは最初はご自身でも納得の演技だと感じたと思うのですが、実際はエラーなどがあり、思ったより点数が伸びませんでした。残念な気持ちはありましたか?
結局、自分のミスですからね。「ミスしてしまったんや」という自分でも分からないミスをしてしまったので、そこはしっかり修正しないと、と思いました。でもSPが終わったときのお客さんの歓声からすごく勇気をもらったし、うれしかったので、FSに向けて期待に応えないといけないと思っていました。
――すぐに切り替えられました?
そうですね。切り替えというよりも、そこまで落ち込んではいなかったんです。いつも見てくれる母なんかも「良かったよ」と言ってくれたので、そこは自信になりました。
4回転ジャンプが安定してきた
今季は4回転ジャンプが安定している。しかし、織田は「あまり考えすぎないようにしている」とし、他の要素においてもレベルアップを図っている 【Getty Images】
そうですね。昨シーズンは筋力から上げていかなきゃいけなかったので、それと4回転を跳ぶ技術がかみ合わなかったんですけど、昨シーズンのトレーニングで培ったものを今季の自分自身のパワーに変えることができたので、4回転も安定してきたと思います。以前は四六時中、4回転のことを意識していたんですけど、いまは4回転を2本跳ぶということだったり、ステップから4回転を跳ぶということだったり、違う考え方をできるようになったので、レベルアップできているなと思います。
――今季は別のことも考えられるようになったと?
ほかの面でも成長していかなきゃいけないと感じますし、芸術面でも伸ばしていきたいと思ったので、4回転のことをあまり考えないで良くなるような自分を目指して、トレーニングをしてきました。いまは少しずつできているのかなと思います。
――4回転ジャンプやそのほかのジャンプも含めて、昨シーズンからフォームを変えたり、練習の方法を変えたりしたということはありましたか?
特に技術面で「これを変えた」というのはないんですけど、どの練習をするにしても絶対にあきらめないとか、妥協しないとか、自分がこれをやると決めたら最後までしっかりやることを心がけています。
――2シーズン前のけがを踏まえて、昨季や今季で変えた部分はありますか?
きちんと体のケアをするようにしています。1度けがをした部分をまたけがすることはよくあることなので。そういうところは意識して、オイルを塗ったり、湿布を貼ったりというケアはけがをしたときに学んだので、いまでも練習にプラスしてやっています。
――けっこう入念にやっているのですか?
2カ月に1回とか調子が悪いときに古傷が痛んだり、まれに感じるときがあるので、そういうときは特に入念にやるようにしています。五輪シーズンで無理をしないということは無理なんですけど、ケアをよくできるようになったかなと。
自分の人生が変わるターニングポイント
ジャンプだけじゃなく、スピンやステップのレベルであったり、技術面を落とさないようにしなきゃいけないと思っています。自分が目指している高いレベルの評価をもらえるようにすることと、芸術面においても、指先や足先を意識して滑るようにしています。
――かつてないほど出場権争いが熾烈を極めています。長年、男子フィギュア界をけん引してきた織田選手にとっては、現状をどう思いますか?
若手の選手がすごく伸びてうれしい反面、勢いがある選手と戦わないといけない難しさをベテランの選手はみんな感じていると思います。緊張や不安や焦りはあるかもしれないですけど、自分の人生において、僕はいま、すごく充実した時期を過ごせていると思うんです。だから自分の人生が変わるターニングポイントなんだと思って、気を抜かないで練習をしています。
――8年前や4年前と比べて、代表選考を控えたいまぐらいの時期で変わっている部分はありますか?
(8年前の)トリノ五輪のシーズンはシニア1年目で、自分が五輪候補と言ってもらえることがすごく光栄でした。本田(武史)選手や高橋(大輔)選手もいましたし、シーズンが始まるまでは五輪なんて全く考えていなくて。初めてのシニアのシーズンだったので、のびのびやろうという気持ちしかなかったんです。本当に注目してもらえたし、自分のスケートを知ってもらえて、すごく良い年だと感じていました。プレッシャーもなかったですし、ただただ勝ちたい、良い演技をしたいという気持ちだけでした。
そういうシーズンを経て、バンクーバー五輪までの4年間は、バンクーバーを集大成にしようという気持ちでしたね。23歳になる年で、そのあとスケートをやるか決めていなかったし、そこを1つの区切りとして、集大成だと思ってやってきたので、そういう意味では4年前のほうが自分にプレッシャーをかけていました。そこでソチに向けてやっていきたいという気持ちも強くなりました。いまは自分よりも周りの選手の勢いにプレッシャーを感じる部分があります。そういった面ではいまのほうがプレッシャーを感じているかもしれません。
――4年前と現在を比べて成長した部分はどういうところだと思っていますか?
バンクーバー五輪のときは自分自身が子どもだなと思っていました。それが結婚を経て、子どもができて、だいぶ落ち着いてきましたね。前までは感情の起伏が激しかったんですけど、いまはそういうことがなくなりました。何事にも冷静に接することができるようになったかなと思います。