「豊さんとベルカントの名を歴史に」=角田調教師 朝日杯FSインタビュー
この子についてくる馬はいないのでは……
阪神よりも中山マイルならば…… 【netkeiba.com】
「ファンタジーSを勝った直後は、ジュベナイルに、と思っていたんです。でも、次の週にいろいろ考えまして。もし自分が乗るとしたら……ってシミュレーションしたとき、あの馬の個性をより生かすことができるのは、阪神ではなく中山なんじゃないかって。直線も阪神より1ハロン近く短いですからね。それで、もしかしたら……と思って、豊さんに『朝日杯は空いてますか?』って聞いたら『空いてる』とのお返事だったので。むしろ『そっちのほうがいいと思う』ということでしたし、オーナーも快く承諾してくださって」
そうサラリと言ってのけた角田だが、牡牝混合だった阪神3歳Sが阪神3歳牝馬Sとして施行されるようになった91年以降、朝日杯に挑戦した牝馬は、07年の関東馬、フォーチュンワード(6着)ただ1頭(05年に関東馬のスロクハイネスが登録したが、直前に出走取消)。牡馬相手に加え、長距離輸送を伴うだけに、容易に選択できるローテではない。
「小倉に2回輸送していますが、体も減りませんし、何よりどっしりしているんですよね。気性というよりも、坂路で追い切ったときに、ブレずに真っ直ぐ走ってくれるんです。栗東の坂路はすごく負荷がかかりますし、パワーとスピードがないとなかなかそうはいかないものですが、この馬は安定感があるし、負けじと耐えてくれる。それでいて、ご飯もモリモリ食べてくれるので、いうことないんです。だから僕は、牝馬だと思っていません(笑)。男馬のつもりでやってます」
「不安だった」という1400mから、今度はさらに1ハロン延長。この200mの壁は、元ジョッキーとして重々わかっているはず。血統背景も、父はサクラバクシンオー。母セレブラールも、1200mで3勝を挙げた短距離馬だ。「本当なら、1200mなんでしょうけど……」と前置きした上で、中山1600mに向けての勝算を語ってくれた。
「不安がないといえば嘘になりますが、この子の場合は、持ってくれると思うんですよね。というのも、この子のペースは全体的に速いので、ついてくる馬がいないんじゃないかと。新馬の2ハロン目が10秒5、小倉2歳Sは重馬場で10秒2ですからね。ファンタジーSのときは10秒9でしたが、それでも10秒台。一人旅になれば折り合いもつくので、そうなったら十分にチャンスじゃないかと。僕は思っていませんけど、一応牝馬なので(笑)、1キロ軽い斤量で出走できますしね。今のところ、ひとつひとつ課題をクリアしていってくれているので、この調子で2000mくらいまで持ってくれないかな(笑)」
ハナを切るかどうかは、豊さん次第
フジキセキvs.スキーキャプテンから19年、今度は角田師が武豊に勝利のプレゼントをする番だ 【netkeiba.com】
「馬房では、いつも怒ってます(笑)。ほら、耳を絞ってるでしょう。でも、こうやってニンジンを持ってくれば大丈夫です。完全に花より団子です(笑)」
角田の手からあっという間にニンジンを2〜3本平らげると、再び耳を絞って、我々取材陣をジッと見つめるベルカント。いかにも一筋縄にはいかないといった風情だが、そこは鞍上、武豊である。角田も全幅の信頼を置いている。
「さっきは僕の考えを言いましたが、ハナを切るかどうかは、もちろん豊さん次第です。調教と競馬は全然違うので、僕はもう願うだけです。道中のペース配分云々も、相手は豊さんですからね。僕はもう、本当に何も言う必要がありません。でもね、朝日杯は、僕のほうが先に勝ってますからね(笑)。新聞社の人から、豊さんが僕に『勝ち方を教えてもらおうかな』って、冗談で言ってたって聞きました。僕がフジキセキで勝ったときの2着が、豊さんのスキーキャプテンで。僕が阻止しちゃいましたから」
あれから19年。ライバルとしてクビ差の勝負を演じたふたりが、立場を変えて、同じゴールを目指す。
「ここで豊さんのJRA全GI制覇という記録が生まれれば、ベルカントの名前も一緒に歴史に刻まれますからね。そうなれば最高ですね」
朝日杯FSには、イスラボニータ(東スポ杯2歳S)もカラダレジェンド(京王杯2歳S)もいない。牝馬にして、ただ1頭の重賞勝ち馬として挑むベルカント。武豊のJRA全GI勝利、そして33年振りとなる牝馬による朝日杯制覇。師走の中山でふたつの金字塔が生まれるかもしれない。(了・文中敬称略)