F1日本GPに見た鈴鹿の“おもてなし”=語り継ぐべき『世界最高のF1ファン』
動員数は過去最低だったが……
急きょ、子どもたち限定で追加サイン会を行ったベッテル 【吉田知弘】
1987年から鈴鹿サーキットを舞台にF1日本GPの開催がスタート。途中2年間は富士スピードウェイ(静岡県)で行われたが、今回で同サーキットでの開催25回目を迎えた。しかし、今年は日本の自動車メーカーや日本人ドライバーの参戦もなく、決勝日の来場者数も8万6000人と、人気絶頂期(過去最高は2006年の16万1000人)の約半分に留まってしまった。
確かに数字だけを見れば過去最低。それと比例して「観客の盛り上がりは以前ほどではないのでは?」と見解を持っている方々も多いと思うが、ファンの熱気は昨年までとは何ら変わらぬものがあった。
年に一度の日本開催を楽しみにしていた多くの日本のファンは、今年も開幕前日に行われたファンイベントから会場に詰めかけ、ピットロードが特別開放されるピットウォークやドライバーが全員出席したサイン会は大盛況。ここまでは他国で開催されるグランプリでも同じなのだが、一つ違うのは対応するドライバーだった。多忙なスケジュールで、常に分刻みで行動しているため、ファンサービスをゆっくりしている時間などないに等しい。それにも関わらず、今回の鈴鹿では立ち止まって一人ひとり丁寧にサインに応じる姿が目立った。
特に10日(木)に行われたサイン会では、ドライバー1人あたり抽選で選ばれた30人までという上限が決まっていたのだが、3年連続チャンピオンに輝いているベッテルは「あそこに僕のサインを欲しがっている人が大勢いるじゃないか。もっと連れてきてくれ」と自らスタッフに交渉。急きょ子どもたち限定で追加サイン会が行われるという、異例の事態が起きた。
世界最高峰の舞台で活躍するF1ドライバーたちが手厚くファンと接するのには、理由があった。
王者ベッテルも絶賛する鈴鹿の素晴らしさ
チーム、ドライバーに分け隔てなく、サインを求める日本のファン 【吉田知弘】
普通、野球やサッカーなど、スポーツ競技の会場では「好きなチームを応援するが、ライバルに対してはブーイング」ということは当たり前のように見られる。それが鈴鹿の場合は、それぞれ贔屓(ひいき)にしているドライバーやチームがいるのは確かだが、それ以外のチームのドライバーが目の前を通過しても、急いで色紙とサインペンを取り出しサインをねだりに行く。
それだけではなく、毎日夜が明ける前からサーキット入りするドライバーをゲート前で熱心に待ち続け、ここでもチームやドライバーに関係なく、目の前を通過すれば笑顔で手を振って歓迎。レース後も夜遅くまで張り付き、時には日付をまたぐまでドライバーが通過するのを待ち続けるファンの姿が、今年もたくさん見かけられた。
こういった些細なことがドライバーたちにとってはたまらなくうれしいことなのだ。
もちろん、F1もスポーツ競技の一つであり、チーム同士、ドライバー同士の白熱したバトルが一番の魅力。だが、鈴鹿に毎年訪れるファンはレース観戦だけではなく以前は会うことすら不可能に近いと言われていたドライバーに声をかけ、手を振ることで“世界最高峰のレースイベントに参加している”という、思い出を作ろうとしているように、今回の取材を通して強く感じた。