F1日本GPに見た鈴鹿の“おもてなし”=語り継ぐべき『世界最高のF1ファン』

吉田知弘

何年も前から自発的に行われている取り組み

帰りのメインゲートではスタッフたちの心がこもった横断幕が広げられている 【吉田知弘】

 こういった雰囲気ができ上がり始めたのも、開催地である鈴鹿サーキットの努力が、影では大きく影響している。サーキット側からファンに、今年も快適にレース観戦をしてもらうためだけでなく、少しでも良い思い出を作ってもらおうとさまざまな演出が用意されていた。

 世界最高レベルの練度と高い評価を受けている鈴鹿のコースマーシャルは、レース前に観客に向かって歓迎のあいさつを行い、決勝後にはイベント広場でファンと記念撮影するなど、鈴鹿でしか見られないマーシャルたちの自発的に行う“おもてなし”があった。また、鈴鹿サーキットを後にする際、最後に通過するメインゲートには『また、来年お会いしましょう!』と大きく書かれた横断幕が掲げられ、その前でスタッフが「観戦お疲れ様でした! お気をつけてお帰りください! また来年お会いしましょう!」と、週末を通して通い続けてくれたファンにチェッカーフラッグを振って笑顔で見送っていた。

 今年が25回目だからというわけではなく、サーキットのスタッフたちの工夫と努力で、何年も前から自発的に動き出し、それが毎年恒例の光景になり始めている。中には、これらを楽しみに毎年鈴鹿にやってくるファンもいるほどだ。
 スタッフ全員が『仕事として』という面を全面に出さず、『仕事ではあるけれどお客様と一緒に楽しむ。お客様により楽しんでもらう』という“おもてなし”も、今年の盛況ぶりに少なからず貢献しているように感じられた。

 こうして幕を閉じた2013年のF1日本GP。もちろん、素晴らしいレースがコース上で展開されたのだが、それ以上に今年も熱狂的にレース全体を応援してくれた日本のファンを各国のメディアが高く評価していたのが印象的だった。

克服してほしい課題

『世界最高のF1ファン』である鈴鹿を訪れるファンたち。しかし最低限のマナーは守って欲しい 【吉田知弘】

 これだけ素晴らしいファン、素晴らしいスタッフが集まる鈴鹿だが、まだまだ課題は残っていると感じている。

 まずは観戦チケットの料金。プロ野球やJリーグなどは1試合当たり高くても1万円未満で収まる。また世界3大スポーツであるサッカーのワールドカップやオリンピックなども2〜3万円というところが大体の相場だろう。
 それに対しF1日本GPは最低でも1万1000円で、平均すると約4万円程度。メインストレートが一望できるグランドスタンドが6万円以上と非常に高額なのだ。もちろん、F1の場合は金曜日のフリー走行から日曜日の決勝レースまでを通して観戦できるチケットになっており、ほかの競技とはシステムが異なる部分はあるものの、さすがに少し興味を持っている程度のファンにとっては手を出しづらい金額だ。

 F1の場合、各レースで莫大なお金が動いており、1回あたりの開催権料も数十億円と言われている。それをカバーするためには、今のような料金体系になってしまうのは、仕方ないかもしれないが、今年のように日本人ドライバーの参戦がなくなると、厳しい来場者数になってしまう。すでに2018年までのF1開催継続が決まっているだけに、来年以降は少しでも改善されることを願いたい。

 もう一つの課題は、ファンのマナー。確かに熱狂的でどのドライバーにもサインをもらいに行こうとする姿勢は日本にしかない光景だが、目の前に女性や小さなお子様がいるにも関わらず、それを押し退けてサインをもらいに行く姿が何度も見られた。
 ファンが大きなけがをしたという話は聞いていないが、これだけ多くの人が集まっている場所だと考えると、一つ間違えれば大きな事故にもなりかねない。多くのドライバーや関係者に「世界最高のファン」と認められているからこそ、より高いレベルでマナー面などを意識していってほしい。そういった細かな積み重ねが、来年以降の来場者数向上につながってくるはずだ。

 25回目という、新たな節目を迎えた鈴鹿サーキットでのF1日本GP。今年は『語り継ぎたい走りがある』をテーマに、ファンとともに過去24回のレースで生まれたドラマを振り返るなど、さまざまなイベントが用意されていた。
 実際に今回も追い抜きが難しいと言われるコースで、何度も迫力あるオーバーテイクシーンが見られ、それぞれのドライバーが全力でぶつかり合う白熱したバトルが展開。また一つ語り継ぎたい走りが増えた。

 だが、今年一番語り継がなければいけないのは、間違いなく鈴鹿に来てくれた8万6000人の“世界最高のF1ファン”の存在。来場した全員が最高の思い出を作り、満足して帰ることが、来場者数よりどれほど重要なことか。それを学んだレースウィークとなった。

<了>

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著者プロフィール

1984年生まれ。幼少の頃から父の影響でF1に興味を持ち、モータースポーツの魅力を1人でも多くの人に伝えるべく、大学卒業後から本格的に取材・執筆を開始。現在では国内のSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に年間20戦以上を現地で取材し、主にWebメディアにニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載。日本モータースポーツ記者会会員

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