松井裕樹は如何にドラ1候補になったか=「特別な存在」が描かせた成長曲線

大利実

桐光学園・松井裕樹が“ドラフトの目玉”と言われるまで成長した陰には「特別な存在」と意識してきた横浜高がいる 【写真は共同】

 10月24日に行われるプロ野球ドラフト会議の目玉、桐光学園高・松井裕樹が「特別な存在」として意識し続けてきた相手がいる――春夏5度の全国制覇を誇る横浜高だ。

「入学したときはどこがライバルとか、全然分からなくて。それが、1年夏秋と続けて敗戦。横浜を強く意識するようになりました」

「徹底してくる姿勢、向かってくる感じが違う」とその強さを表現した横浜高に勝つためには何をしなくてはいけないか。過去の対戦の歩みを見ると、松井の成長曲線が見えてくる。

奪三振の偉業を呼んだ1年時の連敗

 1年夏は先発で5回途中まで被安打2、自責点1と試合をつくるも、延長で敗れた。2年夏の甲子園で「ドクターK」ぶりを発揮した松井だが、この横浜高戦では打者11人に対して三振ゼロ。空振りもわずか1つ。ストレートとスライダーの勢いで勝負していたが、相手の脅威になるほどではなかった。

 新チームからエース番号を背負うと、秋の4回戦で再び横浜高と対戦。5回まで3安打1失点に抑えてはいたが、4四球を与え、球数は96球。高めのストレート、低めのスライダーを完全に見極められていた。
「低めのスライダーも、高めのストレートも振ってこない。打席の立ち位置も徹底されている。嫌な印象がありました」
 終盤にへばった松井は6回に2安打3四球3失点と崩れ、3対4で苦杯をなめた。横浜の「見極め」にやられた感があった。

 3度目の横浜高戦は、2年生の夏に訪れた。舞台は準々決勝。松井は先頭の浅間大基から145キロのストレートで三振を奪うと、2番・高橋亮謙から4番・高濱祐仁まではスライダーで見逃し三振。1年時とは見違えるようなピッチャーに生まれ変わっていた。
 一番の要因はフォームの安定感にある。入学当初から踏み出し足のインステップが課題と言われていたが、2年夏にはだいぶ改善されていた。それがコントロールの安定につながり、この横浜戦では8回まで3四球。9回に連続フォアボールと三塁打で1点差に迫られるが、最後は伝家の宝刀・縦のスライダーでスクイズをファウル(3バント失敗)にして逃げ切った。

「1年生のときに野呂(雅之)監督とフォームについて話し合ったことがあります。インステップしているけど、『体が強くなっていけば、直っていくから』と、無理に矯正することはしませんでした。フォームが安定することで、結果的に球数も抑えられるようになりました」
 継続していたのが、平均台でのシャドウピッチングだ。とくに2年生の春以降、時間を割いて取り組むようになった。その結果が、横浜高を破っての甲子園、そして甲子園4試合68奪三振の偉業につながっていった。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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