香川真司が痛感した試合勘不足=東欧の地で誓ったクラブでの現状打破

元川悦子

積極性を見せたが、尻すぼみの結果に

積極性こそ見せたものの、ベラルーシ戦に敗れた。香川はクラブでの現状打破を誓う 【写真は共同】

 気温約10度。どんよりとした曇天の中、トルペド・ジョジナ・スタジアムでキックオフされたこの試合。開始早々の4分に香川は重苦しいムードを吹き飛ばすかのように、本田からパスを受け、左サイドから思い切りのいいシュートを放った。「この日の彼は消極的だった前回とは違う」という印象を見る者に与えるいいプレーだった。このアタックが仲間たちに勇気を与えたのか、11分の岡崎のシュート、13分に長谷部の出したボールがDFに当たってこぼれたところに柿谷曜一朗が詰めてGKと1対1になった決定機、そして香川自身がワンツーの起点になって内田篤人の強烈シュートにつなげた19分のビッグチャンスなど、いい形が数多く見られた。

 しかし長谷部が「これだけ戦術がしっかりしているチームはあまりない。それだけベラルーシは厳しく守備をしてきた。細かい小さなパスは特に狙われていると思った」と言うように、相手も日本の戦い方を瞬時に察知し、ボランチ、両サイド、トップのところには激しいプレスをかけ、カウンターを狙ってきた。こうして徐々にリズムがベラルーシに移った前半44分、日本は左サイドからのサイドチェンジで失点してしまう。カラチェフに長友がマークに行くもルーズになり、ディゴレフに戻された時も長谷部のチェックが中途半端になった。その直後、目の覚めるような右足ミドル弾がゴール左隅に飛ぶ。日本にとっては悪夢のような瞬間だった。

 アルベルト・ザッケローニ監督もビハインドの状況を打開しようと、後半6分に柿谷を下げて森重真人を投入。3−4−3にして攻めに出たが、長友の負傷交代も響いて機能しなかった。

「3−4−3になってからは形が見えなかった。前に3人しかいなかった分、やりながらどう崩せばいいのかなという難しさはありました」と香川も振り返る。終盤に4−2−3−1に戻した時にはもはや選手たちの体力消耗も著しく、攻め手を見いだせない。香川自身も攻撃にダイナミズムをもたらせいまま、尻すぼみの結果に終わってしまった。

自分たちのスタイルを貫く重要性

 沈痛なムードの漂うロッカールームから出てきた香川は開口一番、こう言った。
「ベラルーシ相手に負けてしまった……。W杯に出られない2チームに負けたのが現状かなと。今のチーム状態は決して良くない。でもここでバラバラになることがもっと良くない。このチームは同じメンバーで何試合もやってますし、ここで空中分解というか、1人ひとりが疑問を持った時に、一番やってはいけないことが起きる。このチームを信じてやっていくしかないし、この2試合をしっかり受け止めていくしかない」と、エースは2連敗の責任を一身に背負いこんだ。

 この黒星で2013年の日本代表は8敗目。ブラジルやイタリアなど強豪との対戦が多いにしろ、W杯前年にこれだけ敗戦続きというのは、本番に向けて不安が大き過ぎる。「攻撃的に行くスタイルはもはや通用しない」「守備的な方向に転換すべき」という意見も大きくなる中、香川はブレずに自分たちのやり方を貫くことの重要性を自らに言い聞かせるように語った。

「今回のベラルーシ戦では、リスクを冒さないと点を取れないと思いながら、みんな半信半疑なところがあった。本当にいいのかダメなのか様子を見ながらやっていた部分があったと思います。だけど、サイドバックやボランチがどんどん出て行くとか、ポゼッションをしている時に誰かがガッと出るとか、スピードの変化をつけたりしないと、ブロックを敷いてくる相手は崩せない。来月戦うオランダのような強い相手は、もっとリスクを冒さないと点は取れない。自分たちの目指す攻撃的なところはブレてはいけないし、そこにどれだけチャレンジできるかだと僕は思うんで。このまま行ったら絶対にダメだと思います。南アフリカW杯の時みたいに引いて守るという判断はないし、監督もしないと思う。この2試合、失点はしましたけど、大きく崩されての失点はなかった。守備においてはポジティブなところがあったので、それを生かしながらリスクを回避していけるかが重要だと思います」と彼は思いのたけを吐き出すかのように喋った。

 そして、自らが認めるのを一番嫌がっていたユナイテッドでの出場機会激減による試合勘の不足についても、潔く認めていた。

「僕個人としては、やっぱり試合に出なきゃいけないというのをこの2試合であらためて感じた。国を通して戦う雰囲気とか試合勘は公式戦で感じられるところがある。この2試合はすごくのまれていたというか、どこか入りきれてなかった部分があったのは事実。あとはコンディション的な問題ですね。厳しい戦いの中で個を磨いて、自分を磨いていかなきゃいけないのかなと思います」

「弱気には絶対なりたくない」

 今の香川真司は代表戦のピッチに立っても迷いながら1つひとつのプレーを選択しているように見える。前半35分に長谷部からのイージーなパスをトラップミスした場面などはその象徴。ボルシア・ドルトムントで輝いていた時の堂々としたパフォーマンスと比べると、落差が大きいと言わざるを得ない。

「やっぱり試合に出て、結果を残している時の方が自信があります。だけど自分にはこれまで積み上げてきたものがあるし、弱気には絶対なりたくない。自分がマンチェスター・ユナイテッドのプレーヤーだから何でもできるという勘違いもしちゃいけないと思っている。そういう部分を含めて、やっぱり試合に出なきゃいけないと感じてます」

 香川がゴール前の鋭さを取り戻さない限り、日本代表はリスクを冒して相手に襲い掛かるような有効な攻めは仕掛けられない。それだけ彼は今のザックジャパンにとって重要なピースだ。ユナイテッドですぐに出番をつかむのは難しいが、そこにトライしていくしか、今の不振を克服するすべはない。

 東欧の地で誓った八方塞がりからの脱出はいつ現実になるのか。とにかく当面の香川の動向に注視していくことが肝要だろう。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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