佐藤有香コーチの挑戦とプロ人生=元世界女王、節目の五輪シーズンへ
プロ転向から20周年を迎える佐藤有香コーチ(右)。模索し歩んだ時間を経て、節目の五輪シーズンへ。左は世界のトップ指導者、父の佐藤信夫コーチ 【Getty Images】
短い準備期間の中で―― 高橋、木原に感じた熱意
本当はすごく残念です、と言わなきゃいけないんですけど、私とジェイソン(・ダンジェンコーチは佐藤コーチと合同で高橋、木原組を指導)は、成ちゃん(高橋)と龍一くん(木原)が一番最初に2人でリンクに立ったときのことを思い出すと、悔しいと言う言葉は逆に言ってはいけないのでないかと、2人で話をしました。なぜなら、女の子と手を組んで滑ったこともない木原選手がいまではワンハンドのオーバーヘッドリフトを、それもあんなに良い質の、流れのあるリフトができるようになったことを考えると言ってはいけない。やっぱりちゃんと基礎に時間をかけていままでやってきたことが良かったですし、このまま継続していくべきだと思いました。この(五輪出場を逃した)結果は仕方がないのではないかと。この短い時間の中で2人が命がけで何とかしよう、何とか五輪に行けるようにしたいと頑張ってきた。その努力といままでの経過を振り返るとすごく、彼らのことを誇りに思ってもいいのではないでしょうか。
もちろん、結果としては残念なんですが、今回の結果が彼らチームにとって良い経験であり、試練であり、これを乗り越えていって、またもっと一回りでも二回りでも大きくなるんじゃないかなと信じているのでよく頑張ったと思います。
佐藤コーチが指導する高橋(上)と木原のペア。短い時間のなかで、五輪出場枠獲得に向けて奮闘した 【Getty Images】
いくつかある中で、一番足りなかったのは時間です。やはり2人のチームとしてやってきた経験が浅かった。それから、私たちとの師弟関係の構築も浅く、選手として2人ともまだ若手(21歳同士)で、エリートアスリートとしての経験も浅かったことが露呈したと思います。こういう苦い経験は高橋大輔選手も浅田真央選手も誰もが通る道で、これを乗り越えてまた一人前になっていくので、一足飛びに越えてはいけない試練かなと思います。
――9月の五輪予選会までの約8カ月間、彼らが取り組んできたことで一番成長し、褒めてあげたいところはどこですか?
本当にいろいろあるんですが、やっぱり本当に一生懸命に取り組み、どうしても自分たちが五輪に行きたい、良い選手になりたい、良いチームになりたいというその欲望が伝わってきたところです。いくら才能のある選手でも、やる気とか熱意なしではできないことなので、2人とも上手くなりたい、やりたいという情熱があったから一緒になってついて来てくれたし、この短期間でここまで来れた一番の要因だと思います。
――高橋、木原組が目指す、次の目標や取り組みについてはどのように考えていますか?
いまの段階でやはりすごく将来性を秘めたチームだと思うので、これからできるだけケガがなく、事故がなく、そして健康なアスリートとして続けていけることができれば。チームとしての調和も良いですし、何か魅力のあるチームだと思いますので、これからが楽しみだなと私たちも思っています。4年後のことを考えるのではなく、1日ずつ進んでいくことのみですね。まずは今シーズンにベストを尽くせるようにやっていけたらいいです。この間のロンバルディア杯(イタリア)で世界選手権とグランプリに出場できるミニマムポイント(最低技術点)を獲得していますので、来年3月までNHK杯、ロシア杯などの国際大会に出場し、このままできるところまで頑張りたいなと思っています。