佐藤有香コーチの挑戦とプロ人生=元世界女王、節目の五輪シーズンへ

辛仁夏

プロ転向から20周年を迎える佐藤有香コーチ(右)。模索し歩んだ時間を経て、節目の五輪シーズンへ。左は世界のトップ指導者、父の佐藤信夫コーチ 【Getty Images】

 9月下旬に行われた五輪予選会を兼ねたネーベルホルン杯(ドイツ)。日本フィギュア界悲願の国内カップルで結成された高橋成美、木原龍一組(木下クラブ)が五輪代表切符を目指してペア種目に出場した。昨年の世界選手権でカナダ選手と組んで銅メダルを獲得した高橋が、今年1月に新たなパートナーにしたのがシングルから転向した「ペア初心者」の木原だった。そんな凸凹(でこぼこ)コンビを今年2月から手取り足取り指導してきたのがここで紹介する佐藤有香コーチだ。
 高橋、木原組にとって競技会2戦目となった五輪予選会は、SP2位の好発進で目標達成に手が届きそうだった。しかし、フリーではジャンプミスを連発して得点が伸びず、13組で争った五輪出場4枠にあと一歩及ばず5番手にとどまった。残念な結果に終わったが、わずか約8カ月という短期間で“即席コンビ”が一人前のペア競技者らしくリンクで演技したことは「奇跡」に近い出来事と言っても過言ではない。そんな2人を導いた佐藤コーチはいったい、どんな人物なのか。スケートファンなら知る人ぞ知るプロスケーターでもある。

短い準備期間の中で―― 高橋、木原に感じた熱意

――ネーベルホルン杯では高橋、木原組があと一歩のところで五輪切符に手が届きませんでした。

 本当はすごく残念です、と言わなきゃいけないんですけど、私とジェイソン(・ダンジェンコーチは佐藤コーチと合同で高橋、木原組を指導)は、成ちゃん(高橋)と龍一くん(木原)が一番最初に2人でリンクに立ったときのことを思い出すと、悔しいと言う言葉は逆に言ってはいけないのでないかと、2人で話をしました。なぜなら、女の子と手を組んで滑ったこともない木原選手がいまではワンハンドのオーバーヘッドリフトを、それもあんなに良い質の、流れのあるリフトができるようになったことを考えると言ってはいけない。やっぱりちゃんと基礎に時間をかけていままでやってきたことが良かったですし、このまま継続していくべきだと思いました。この(五輪出場を逃した)結果は仕方がないのではないかと。この短い時間の中で2人が命がけで何とかしよう、何とか五輪に行けるようにしたいと頑張ってきた。その努力といままでの経過を振り返るとすごく、彼らのことを誇りに思ってもいいのではないでしょうか。
 もちろん、結果としては残念なんですが、今回の結果が彼らチームにとって良い経験であり、試練であり、これを乗り越えていって、またもっと一回りでも二回りでも大きくなるんじゃないかなと信じているのでよく頑張ったと思います。

佐藤コーチが指導する高橋(上)と木原のペア。短い時間のなかで、五輪出場枠獲得に向けて奮闘した 【Getty Images】

――スケート関係者の誰もが彼らの頑張りに涙するほどの成長ぶり。あと一歩及ばなかった今回の挑戦では何が足りなかったと思われますか?

 いくつかある中で、一番足りなかったのは時間です。やはり2人のチームとしてやってきた経験が浅かった。それから、私たちとの師弟関係の構築も浅く、選手として2人ともまだ若手(21歳同士)で、エリートアスリートとしての経験も浅かったことが露呈したと思います。こういう苦い経験は高橋大輔選手も浅田真央選手も誰もが通る道で、これを乗り越えてまた一人前になっていくので、一足飛びに越えてはいけない試練かなと思います。

――9月の五輪予選会までの約8カ月間、彼らが取り組んできたことで一番成長し、褒めてあげたいところはどこですか?

 本当にいろいろあるんですが、やっぱり本当に一生懸命に取り組み、どうしても自分たちが五輪に行きたい、良い選手になりたい、良いチームになりたいというその欲望が伝わってきたところです。いくら才能のある選手でも、やる気とか熱意なしではできないことなので、2人とも上手くなりたい、やりたいという情熱があったから一緒になってついて来てくれたし、この短期間でここまで来れた一番の要因だと思います。

――高橋、木原組が目指す、次の目標や取り組みについてはどのように考えていますか?

 いまの段階でやはりすごく将来性を秘めたチームだと思うので、これからできるだけケガがなく、事故がなく、そして健康なアスリートとして続けていけることができれば。チームとしての調和も良いですし、何か魅力のあるチームだと思いますので、これからが楽しみだなと私たちも思っています。4年後のことを考えるのではなく、1日ずつ進んでいくことのみですね。まずは今シーズンにベストを尽くせるようにやっていけたらいいです。この間のロンバルディア杯(イタリア)で世界選手権とグランプリに出場できるミニマムポイント(最低技術点)を獲得していますので、来年3月までNHK杯、ロシア杯などの国際大会に出場し、このままできるところまで頑張りたいなと思っています。

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著者プロフィール

 東京生まれの横浜育ち。1991年大学卒業後、東京新聞運動部に所属。スポーツ記者として取材活動を始める。テニス、フィギュアスケート、サッカーなどのオリンピック種目からニュースポーツまで幅広く取材。大学時代は初心者ながら体育会テニス部でプレー。2000年秋から1年間、韓国に語学留学。帰国後、フリーランス記者として活動の場を開拓中も、営業力がいまひとつ? 韓国語を使う仕事も始めようと思案の今日この頃。各競技の世界選手権、アジア大会など海外にも足を運ぶ。

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