内田篤人が胸に秘めた勝利への渇望=セルビア戦で見せた世界レベルの守備力

元川悦子

2失点よりも無得点に反省

W杯本番へのテストマッチとしてはまだまだ不安が残るものの、内田は「まだ大丈夫」と語る 【Getty Images】

 一方の攻撃面は、前半21分、吉田のロングパスに反応してペナルティーエリア内で倒された場面を筆頭に、可能な限りのチャンスメークをしようと試みた。後半9分にも、内田がタテに浮き球のパスを入れ、岡崎がペナルティーエリア付近で粘ったところに柿谷曜一朗が飛び込み、GKと1対1になる決定機を作った。もちろんシャルケで見せるほどの効果的な攻撃参加は叶わなかったが、内田の気の利いたプレーがチームのエッセンスになる場面が何度か見られたのは確かだ。

 こうした奮闘も及ばず、日本は0−2で敗戦を喫した。セルビアはブラニスラフ・イバノビッチ(チェルシー/イングランド)ら世界的ビッグクラブ所属選手を多数抱える強豪ではあるが、2014年ブラジルワールドカップ(W杯)出場権を逃している。このレベルの相手に勝ち星を挙げられなければ、日本がブラジルで1次リーグを突破して、前回の2010年南アフリカ大会を上回る成績を残すのは不可能に近い。
 内田も「自分はシャルケでやってて、ファルファン(ペルー代表)もW杯に出れないし、いい選手が代表にかすりもしないっていう状況を目の当たりにしてるから、恥ずかしいゲームはできない。ヨーロッパのチームは『日本はW杯が決まってるチーム』っていう目で見てきますからね」と語り、意地とプライドを示したいと考えていたが、その思惑は今回、見事に外れる格好となった。

「いいふうにボールを回せてる時間帯があったし、やっぱりそこで点を取りたいなと思いましたね。2失点よりも、無得点というのがすごく悔やまれる。失点はもちろん悔しいし、課題なんですけど、後半は前半よりもど真ん中が空くシーンがありましたし、そういうシーンで少し最後の質が足りなかった。オカちゃんがGKとぶつかったり、真司も前半に1本ありましたけど、真ん中からサイドに散らしてそこから攻めたら行けると思ったけど、相手の真ん中が固かった。
 ヨーロッパの相手はそういうチームが多いんですよね。僕らは途中まではうまくいけるんだけど……。それをゴールという形で表現できたら、もっと上のレベルに行けると思います」と内田はまくしたてるように熱っぽく言葉を発し続けた。
 その姿は2日前まで「親善試合だから……」とモチベーションが上がりきらないような素振りを見せていた彼とは全くの別人だった。常勝軍団・鹿島アントラーズで培った「勝負になったら絶対に負けたくない。勝つためならどんなことでもする」という確固たる哲学を、改めて強く示したのだ。

W杯本番に不安残すも、内田は「まだ大丈夫」

 日本代表がヨーロッパの強豪と対峙しても勝ちきれる集団に変貌したいなら、相手の出方を見ながら臨機応変に戦い方を変えられるような柔軟性とインテリジェンスを身に着ける必要がある……。内田は今、そんな思いを抱いているようだ。
「『引いて守って』とか『前から行って』とか『日本らしいサッカー』とかみんなよく言ってるけど、臨機応変にやらないと絶対に勝てない。サッカーっていうのは、どれか1つの方法で勝てるものじゃない。今回みたいにうまく守っても、相手はカウンターで(得点を)取ってくるし。後半ロスタイムに取られた2点目なんか、いいお手本。僕らが考えてるヒマがないくらい速い攻めだった。そういうことのできるチームはやっぱり強いですよね」と彼は多彩なオプションの必要性を強調する。

 ブラジル本大会までの日本代表の活動は極めて少ない。年内のゲームも次のベラルーシ戦、11月16日のオランダ戦(ゲンク)と19日のもう1試合だけ。来年も3月のインターナショナルマッチデーと本番直前合宿くらいしか強化時間がない。そういう限られた状況下で、内田の言う臨機応変な戦い方を身に着けるのは難易度の高い話だ。ザックジャパンの行く末は前途多難というしかない。

 それでも、南アフリカ大会直前の紆余曲折を知っている内田は、「まだ大丈夫」と言い切った。
「南アの直前の状態? 全然そこまでじゃないですよ。今の代表はみんな気持ちが強いから、メンタル的にも問題ないです。まあ、うまくいかない時はうまくいかないもの。とにかく、1つ結果が出ればチームは変わる。シャルケでもそうですからね」と彼はいち早く先を見据えていた。

 チームの流れを変えるためにも、次のベラルーシ戦は勝利が必要不可欠だ。セルビア戦から中3日と試合間隔が短いため、内田は控えに回る可能性もあるが、仮にピッチに立たなかったとしてもやれることは沢山あるはず。日本代表ではチームのけん引役を長谷部誠や本田圭佑、長友佑都ら先輩に任せている彼だが、胸に秘めている勝利への飽くなき渇望をそろそろ周りに伝えてもいい頃ではないだろうか。ブラジルまでの残された時間を内田なりのやり方で大事にしてほしいものだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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