デニムアンドルビーに乗せる角居師の夢=秋華賞直前インタビュー

netkeiba.com

強さの秘密は優れた心肺機能

デニムアンドルビーに騎乗する内田騎手(右)。ベテランジョッキーの助言は角居氏にとっても心強い 【netkeiba.com】

 冒頭で触れた「春は順調ではなかった」という角居の言葉は、新馬戦からオークスまでのローテーションにあった。逆に言えば、馬の成長に合わせて調教メニューを組んできたからこそ、今のデニムアンドルビーがあるともいえ、相手が生き物だけに、そこに正解はない。

「春はギリギリの体でGIまでいってしまったので、夏の休養で体が膨らんできてくれたらいいなと思っていたんですが、僕の理想通り、30キロ近く太って帰ってきてくれて。それでいて、柔らかさが残っていましたから、しっかりトレーニングされてきたんだなと。おかげで入厩してからもしっかりご飯を食べながら、調教を積むことができました。理想的な夏休みだったと思います」

 オークス出走時点で432キロ。それでいて、デニムアンドルビーという馬は、線の細さを感じさせない。筆者がその印象を角居に告げると、

「そうなんですよね。胸が深いというか、いかにも心肺機能が優れていそうな体つきです。追い切りの後でも、へこたれたり、呼吸が乱れたりしたことがない子なんですよ。心臓と肺がいい馬っていうのは、レース後も心臓の拍数をすぐに安定した数字に戻せる能力を持っているんだと思います。歴代のGI馬を振り返ると、レース直後の写真撮影でも、苦しがらずにピタリと立ち止まりますからね。それに、エンジンさえ良ければ、むしろ小さい体の方が速く走れますからね。それでいてデニムは、競馬で接触したりしても、意外と怯まない性格。競走馬として、それも大事な能力のひとつですよね」

 ローズSというタフな競馬の後でも、ダメージを感じさせなかったというデニムアンドルビー。その秘密は、優れた心肺機能にあったのかもしれない。

「見たことのない壁を超えていけるように」

 さて、いよいよ目前に迫った秋華賞。舞台は京都の内回りだ。幾多の有力馬たちが、“差し届かず”の苦汁をなめた舞台。道中最後方の位置取りは、今度は厳しいかもしれない。

「やはり課題はゲートなんでしょうけど……。内田さんに『ゲート練習をしましょうか?』って言ったら、『そうやって苦しいことをやらせると、走らなくなってしまう可能性があります。レースをこなしていけば、だんだん良くなってくると思いますから、今、無理に矯正しない方がいいんじゃないですか』ということでした」

 さすがベテランの助言である。かくゆう、ゲート練習を促した角居自身、内田のこうした意見を待っていたのではないだろうか。

「内田さんの言う通り、無理に矯正すると、能力を発揮しなくなってしまうことが往々にしてあるんです。ほかの馬に迷惑をかけてしまうような悪癖は別として、何よりそれが一番怖いことですからね。“調教”ということで言えば、いかようにもやり方はあるんです。でも、いち早くゴール板を駆け抜ける馬を作ることが、調教師にとって一番大事なテーマだと思っていますので」

 いつも通り、温和な語り口の中に、トップトレーナーとしての矜持をにじませた角居。もちろん、大一番に向け、ただ手をこまねいているわけではない。

「ゲートの中で悪さをしないよう、そういう練習はしておこうとは思っています。あと、今までの併せ馬はオーバーペースにならないようなメンバーでしたけど、これからは簡単にトップスピードに入るような馬たちとしていこうかなと。うちの厩舎は数字には表れませんが、メンバーを替えるだけで、瞬間的な速さや身のこなしなど変わってきますからね。レベルの高い馬と併せていけば、それだけで負荷がかかりますから」

 桜花賞馬アユサンが離脱、オークス馬のメイショウマンボは、前哨戦で完封した。負けられない一戦……しかし、角居に気負いはない。

「気負うとバレるので(笑)。それに、気負わないトレーニングを、これまでに十分させてもらいましたからね。なんとか平常心で臨めるように頑張ります。秋華賞は、彼女にとってベストなコースではないかもしれませんが、ローズSを見ても、道中いいリズムで走り出しさえすれば、ポジションは取りにいけると思っています。オークスで一番人気に支持していただいたように、皆さんがそれだけの能力があると思ってくださっている。その期待に応えられるような、万全の仕上げをして臨みたいと思っています」

 今年の凱旋門賞こそ出走はかなわなかったが、秋華賞を勝った暁には、夢の続きが待っている。

「実はローズSの後、オーナーから『凱旋門賞、間に合わないのか?』って言われたんですよ。『ちょっとスケジュールが……。飛行機の便がありません』とお答えしたんですけど。新しいパターンだと思いましたけどね(笑)。なにせ飛行機の都合がね」

 父ディープインパクト、母の父キングカメハメハ。金子オーナーの思い入れもひとしおだろう。そういったオーナーの思いに応えるべく、角居は自身のハードルを上げる。

「これからデニムアンドルビーにどれだけのものを積み上げていけるのか……楽しみでもあり、それが私の仕事だと思っています。今まで見たことがない壁を超えていけるような、そんな馬に育てていきたいですね」

 秋華賞を皮切りに、トップトレーナー・角居勝彦の新たな挑戦が始まる。

<了>

角居勝彦
1964年3月28日生まれ、石川県出身。栗東所属の調教師。栗東・中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎での調教助手を経て、2000年に調教師免許取得。翌01年に厩舎開業。07年、牝馬のウオッカでダービー制覇。また、ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、デルタブルースでメルボルンカップ、シーザリオで米オークスを勝利するなど、海外でも活躍。

3/3ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント