山瀬功治が京都にもたらした武器=システム変更を機に発揮された攻撃力

雨堤俊祐

チームでは異端なプレースタイル

 山瀬は、「僕や(駒井)善成のようなドリブルで仕掛ける選手は、京都のサッカーにおいてリズム的にはある部分、異端なところがあるのかもしれない」と語っている。山瀬を獲得した経緯をたどれば、2011年、12年と2年続けて昇格を逃しことでオフシーズンに中村充孝(現鹿島アントラーズ)やチョン・ウヨン(現ジュビロ磐田)という中盤を支えた選手がチームを去り、彼らに代わる即戦力として3年契約というオファーを提示して迎え入れている。

 ただ、全く同じタイプの選手を獲得したというわけではない。パスをつなぐスタイルの下で有能なパサーが集まる半面、ドリブルや空中戦などにより個の局面を打破できる選手はこのチームで貴重な存在だ。山瀬の持つ突破力をチームのリズムと融合させることでワンランク上の攻撃を実現させる――これが狙いだ。もちろん、ただ単に個の局面を打開できればいいというわけではなく、「このチームが持つリズムを崩さないようにしつつ、チームも僕がどういうプレーをするのかを理解する」(山瀬)ことが重要になってくる。口で言うのは簡単だが、実際には困難が伴う作業だ。ましてクラブは“必昇”を今季のチームスローガンに掲げており、移籍1年目から結果が求められる状況にある。それでも京都への加入を決めたのは「選手としてやりがいのあるサッカーだし、これをやれれば結果もついてくる」(山瀬)ことが感じられたからだ。サッカー人生で2度目のJ2でプレーすることになるという事実も大きな障害とはならなかった。

「まっさらな状況で試合に臨みたい」

 実際に山瀬がこのチームにもたらしたものは小さくない。ドリブルはもちろん、周囲の味方を使うことにも長けている。キック精度を生かして、7月の5試合ではCKから2得点を演出。セットプレーのキッカー不在はこのチームが抱える弱点の一つだったが、それも山瀬の加入と福村の成長で解消されつつある。

 クロスに関しては、例えば第31節の徳島ヴォルティス戦における終了間際の同点弾は山瀬が起点となっている。右サイドの浅い位置から放たれたアーリークロスはゴール前でGKから逃げるように曲がって逆サイドへ流れ、そのボールを拾った駒井のクロスからゴールが生まれた。大木監督は「J1の試合を見ていると優れた能力を持つ選手が多い。(山瀬)功治のあのプレーも、それを彷彿とさせたね」と評価している。そしてミドルシュート。京都対策の一つとして自陣で守備を固めてカウンターを狙うという戦い方があるが、その対策の一つとして有効なのが相手の守備ブロックの外からシュートを打つことだ。第14節の群馬戦では遠距離から目の覚めるようなゴールを決めており、相手にとってはやっかいな武器となっている。

 また、ピッチ外での若手への好影響も述べておきたい。同じドリブラーで右ウイングを任されている駒井は、「プレーはもちろん、サッカーに取り組む姿勢や考え方とか、勉強になることが多い」と、多くのことを吸収中だ。若手の多いチームにとってはプロ生活17年目を迎える倉貫一毅とともに手本となれる存在といえる。

 J1昇格を狙うチームは、ここから昇格争いの佳境へと突入する。好調だった7月から一転、8月は2分け3敗と勝利から遠ざかるなど状況は予断を許さない。心身を削るような試合が続く中で、何が求められるのだろうか。山瀬は語る。「京都のスタイルは変わらないし、そうなるとやるべきことは一つしかない。維持しようとすると、そこには慣れも入ってきてしまう。そうならない為には、質を上げることです。そして“残り何試合”とか考えず、1試合1試合にのみ集中すること。もちろん順位や勝ち点、それに疲労なんかも開幕戦のころとは違うけれど、心の中はまっさらな状況で試合に臨みたいですね」

<了>

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著者プロフィール

京都府出身。生まれ育った地元・京都を中心に、Jリーグから育成年代まで幅広く取材を行うサッカーライター。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』で2005年から10年間、京都サンガF.C.の担当記者として活動。現在は京都のオフィシャル媒体や『J's GOAL』、サッカー専門誌などで執筆している。また、TVではJ:COMの『FOOT STYLE 京都』にコメンテーターとして出演中。

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