錦織ショック、トップ10の重圧に負けた=期待から一転、試練の全米オープンに

山口奈緒美

充実のクレー・シーズンに“やり切り感も”

 では、そもそもなぜ、米国でのハードコート・シーズンでいい結果を残してこられなかったのか。13歳から米国に暮らし、「米国の観客や大会の雰囲気は好き。自分にとってはやりやすい環境です」と常々言っている。ところが、今年は調子が上がらなかった。
「モチベーションが上がってこなかったというか、活気が湧いてこなかった」と振り返る。目標にしてきたトップ10が目前という事実は、これ以上ないモチベーションであるにもかかわらずだ……。

「トップ10にも近づいて、考えないようにしていても、プレッシャーがあったのかもしれない。ヨーロッパの3カ月間で“やり切り感”もあったと思う」
 今年のヨーロッパのクレー・シーズンがどういうものだったかというと、マドリードでロジャー・フェデラー(スイス)を倒し、全仏オープンの舞台、ローランギャロスのセンターコートではクレーの王者ラファエル・ナダル(スペイン)と戦うという、確かに濃いシーズンだった。プロ入り後、最も充実したクレー・シーズンだったと言っていい。

 錦織がプレッシャーを認めることは珍しい。プレッシャーを煽られても「いや、別に……」と首をひねるのがお決まりのリアクションである。2日前の記者会見でもこんなやり取りがあった。錦織は今年、オフィシャルホテルではなくニューヨークの日系ホテル『ザ・キタノ』に宿泊し、会見もそこで行われたのだが、支配人が会見に先立ってこんな話をした。過去に全米期間中『ザ・キタノ』に滞在したテニスプレーヤーは2人。それがフェデラーとマリア・シャラポワ(ロシア)で、いずれも泊まった年に優勝している、と。

 これほどのプレッシャーも錦織は「まあ、特には……」と軽く受け流し、「それよりもこの素晴らしいホテルに泊まれることは日本人としてうれしいし、モチベーションも上がるので、いつか優勝できるように頑張りたいです」と話した。

 プレッシャーをプレッシャーとも感じない大らかな性格が、錦織の強さのひとつだと常々感じてきたが、さすがにトップ10を前に、経験したことのない重圧に襲われたのか。それを努めて隠して臨んだ、『ザ・キタノ』での盛大な記者会見だったのかもしれない。
 シーズンはまだ続く。この先、大きな重圧がかかる状況はまだあるが、もうここに書くのはやめよう。錦織がそれを克服し、自信を取り戻したとき、願わくば「いや、別に……」の錦織らしいエピソードとともに明るく振り返りたい。

<了>

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著者プロフィール

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。1999年より全グランドスラムの取材を敢行し、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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