データとフィジカルが日本を強くする=世界のサッカーに追いつくために
データの裏にある“内容”こそが重要
名波氏は、データの裏にある“内容”を見る重要性を説いた 【スポーツナビ】
横浜FMユースの松橋監督によれば、日本クラブユース選手権決勝である選手のデータを計測したところ、延長戦までを含めた走行距離は14キロメートルで、スプリント数は96回にも上ったという。もちろんスピードは違うかもしれないが、前述のバルセロナ戦におけるミュラーの数値とあまり変わりはなく、日本も世界トップレベルに近づきつつあると感じたようだ。選手にとっても、このようなデータが数値化されることで、自身の強みや弱点が一目瞭然(いちもくりょうぜん)となり、モチベーションのアップにつながることだろう。
しかし、同時にデータだけで優劣を決めるのもまた危険なことではある。選手にはそれぞれタイプがあるからだ。名波氏は現役時代、「運動量の少ない選手」と言われていたが、日本代表の司令塔を務め、ジュビロ磐田に黄金時代をもたらした。それは状況に応じて適切なポジションをとり、無駄な動きを廃して効率良くプレーしていたからに過ぎない。一方で運動量が持ち味の長友佑都(インテル)は、動いてナンボの選手である。両者を走行距離で比べるのはナンセンスと言わざるを得ない。
名波氏は、バルセロナのMFシャビに言及しながら、データの裏にある“内容”を見る重要性を説いた。
「シャビはバルセロナの選手の中でも走行距離が最も長い選手。ただ、データだけで見ると多くフリーランニングをしていると勘違いしがちですけど、ボールをもらうために狭い範囲で、体の向きを変えながらまめに何度も動き直しています。プレースタイルで走行距離の内容が違ってくるので、そこは指導する側も気を付けないといけないと思います」
ビジョンを持たせることが成長につながる
長年、日本代表のコンディショニングコーチを務めてきた早川氏。選手たちの特徴を熟知している 【スポーツナビ】
「まずはどういう選手になりたいのかを自分でイメージすることが重要です。そうした上で、データをどう有効活用していくのか。ゴールを決めるために、『この時間帯にこういうプレーができればもっと点を取れる』というように、テクニカルに落とし込んでいけるかが求められてきます」
前述のバイエルンvs.バルセロナ戦に置き換えると、ロッベンはゴールを決めた73分に最高速度を記録したが、自身のスピードを認識し、その力を相手が疲れてきた時間帯に発揮することで、得点への道筋を容易にした。ロッベンのような選手になりたいというビジョンがあるのなら、それに沿ったトレーニングをし、その力を生かすすべを考える。そのときにデータは役立つことだろう。
長年、日本代表のコンディショニングコーチを勤めている早川氏も同調する。
「ビジョンはすごく大事です。2010年のワールドカップ・南アフリカ大会の前に、岡田(武史)監督と『球際で負けないようにしよう』と話していました。その後、フィジカルを強化していき、選手の状態はデータでは右肩上がりで良くなっていったんですが、岡田監督からは『ボールを奪えていないじゃないか』と言われて(苦笑)。フィジカルの数値を上げることが目標じゃなかった。結局、ボールをいかに奪うかというビジョンがきちんと描けていなかったんです」
早川氏によれば、海外の指導者から見た日本人のフィジカル的な特徴は、「持久力があり、俊敏で、狭いスペースで細かいステップを踏めること」。しかし、これらにしても世界の中で優れている方だが、特別というわけではないという。「もともとの骨格が違う」と名波氏も指摘するように、筋力をつけるにも限界はある。だからこそ、少しでも優位性のある特徴とビジョンを伴ったデータの有効活用で、世界と伍していくことが必要ではないだろうか。欧州の列強国やビッグクラブでは、すでにそうした取り組みが日常的に行われている。日本も世界に追いつくために、新たな対策が求められる時期に来ているのは間違いないだろう。
<了>
(文・大橋護良/スポーツナビ)