揺るがぬ柱へと成長する木村沙織の変化=主将として若手を先導するも根は自然体

田中夕子

葛藤の原因はメンタル面の問題

人に意見を伝えるのは不得手な方だが、率先して若手に声をかける木村(右) 【坂本清】

 さまざまなメンバーを試している中での試合とはいえ、ブルガリア、米国を相手に、日本らしさを見せることができないまま連敗。試合序盤の失点の多さや、コンビの精度など、理由は1つではない。それぞれが反省や課題を抱える中、木村の葛藤はまた別のところにあった。

「ゲームの中でも、こっちが主導権を握って、得点を取っているのにコートの中が静かで、勢いに乗り切れていないのがすごくもったいないと思うんです。みんな一生懸命やっているんですけど、今一つ、必死さが伝わらない。自分も含めて、戦う空気をもっとガっと出していかないと、厳しい戦いになったときに我慢しきれず、相手にやられるだけになってしまうので、まずはそういう部分を意識しなきゃいけない。プレー面もそうですけど、意識の面でも、代表として足りないところが多すぎるので、そこは省かず、ちょこちょこ言っていかなきゃいけないな、と思います」

 チームのためにと気遣う一方で、真鍋監督が言うように、新たに加わった責務、立場の変化が木村の言動を変えた。どちらかと言えば、自分の考えや意見を人に伝えるのを不得手とするのだが、若い選手が増えた代表チームで、戦う意識を根付かせるためには、苦手だから、と逃げるわけにいかない。

キャプテンらしさを実感する江畑

 気づいたことがあればうやむやにせず、自ら発信してチームに浸透させる。そんな木村の姿に、これまでと違う変化、逞しさを一番強く感じているのが、2010年の世界選手権から木村の対角でプレーする江畑幸子だ。

「たとえ自分の調子が悪くても、周りが伸び伸びプレーできるように声をかけたり、ミーティングのときもいろんなことを発言するんです。私や(新鍋)理沙がもっと助けなきゃいけないんですけど、プレーの面や、プレー以外の面も、チームをまとめるためにいろんなことをしていて、すごくキャプテンらしいな、と思えるキャプテンです」
 
 高校生で代表入りしてから10年、三度の五輪を経験し、メダリストにもなった。そして今、若いチームの中で格闘しながら、揺るがぬ柱としてチームの屋台骨を支える。

 チェコ戦の翌日、27回目の誕生日を迎える。
「あ、そっか。忘れてた。バタバタしすぎですね」
 あくまで、自然体で。四度目の五輪へ向けた戦いは、これまでと、ひと味もふた味も違うものになりそうだ。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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