川内らが上位に進出するための鍵は?=瀬古氏らが解説する男子マラソン展望

構成:スポーツナビ

エチオピアのチームプレーに要注意(金哲彦)

金哲彦氏は「スピードレースになったら、一番期待が持てる選手」の名に前田を挙げた。東京マラソンでアフリカ勢のペースの上げ下げに耐えた走りを再び出したい 【坂本清】

 女子のマラソンを見ても分かる通り、コースに変化がないので、レース展開は天候次第ですね。蒸し暑かったら、20キロぐらいまで様子見で15分10秒ぐらいのペースでいくのではないでしょうか。そこから駆け引きが始まり、14分台のペースになるかもしれません。もし涼しかったら14分台のレース展開を覚悟しないといけませんね。そして勝負となると、14分30秒ぐらいは出てくるのではと思います。
 あまり速いとついていくべきかどうかの判断が必要となるので、日本人選手にとってはそこが判断のしどころです。

 選手の状態についてですが、川内選手は、ものすごく気合いが入っている印象です。仕上がりが良く、明言している6位入賞を目指してくるでしょう。暑さに関しては、過去に何回か脱水症状を起こしているので、あまりに暑いと厳しいかなと思います。ただ、女子のレースを見ていて、福士選手が最後まで帽子をかぶっていたなど研究しているので、そのあたりはさすがだなと思います。あとは給水の取り方を学習してきたので、揺さぶりをかけられても、対応できるようにしていると思います。夏の給水失敗は命取りなので、その心配がないのは大きいと思います。

 中本選手は、ロンドン五輪6位、世界選手権テグ大会で10位、国内でも安定した力を見せていて失敗がない選手。どんな状況でも、確実に力を出せる選手です。言葉数も少なく、あまり周りに惑わされず、良い意味で動じない選手です。ただ、14分50秒を切ってくる展開だと、ついていけないと思います。それでも中本選手らしく、最後まで粘って落ちてくる選手を拾う気持ちでやってほしい。

 前田選手は、涼しいレースの方が有利かもしれませんね。彼のスピードの特徴はスローペースから一気に上がった時に対応できるところです。途中での上げ下げで14分45秒に耐えることは東京マラソンで証明しました。今回はより平坦なコースなので、それ以上のペースでも耐えられると思います。スピードレースになったら、一番期待が持てる選手です。

 堀端選手は6月までけがをしていて練習ができていない中で、会見では強気にブランクはないと話していました。ただ、マラソンにおいて練習ができていないのは心配です。やはり距離への不安が出ると思います。相当ゆっくりのペースで入らないと、最後まで足が持たないかもしれません。

 藤原選手も良い感じで本番を迎えました。10年ぶりの世界選手権ということで、前回はスタートラインにも立てなかったこともあり、リベンジの気持ちがあるでしょう。日本選手の中で最も年上ということで、まだまだやれるとは思いますが、今回は世界大会で結果を確実に出したいところです。

 海外勢に目を向けると、エチオピアが2時間4分台の選手を5人もそろえてきました。これは対ケニアという部分もあるのですが、チームプレーで揺さぶりをかけてくると思います。相当強いと思います。展開によっては、14分30秒ぐらいのペースにもなりかねないですね。そういう時は無理についていかず、14分50秒程度のスピードで耐えしのいで、落ちてきたら拾っていくというのが正しい選択でしょう。
 正直メダルを狙うのは難しいと思いますが、全員がベストな走りをして、1人でも2人でも、エチオピア、ケニア勢に割り込んでくれたらと思います。

入賞のチャンスは大いにある(榎本靖士)

 基本的には暑くなった方が日本選手にとっては有利に働くと思います。女子マラソンよりもスタート時間が1時間遅くなりますし、このあたりがレースの流れを左右するものになると思います。

 日本式のマラソン練習を積むと、力を長時間発揮し続けることができる、持久力に優れた筋肉「遅筋線維」が発達しやすいと言われます。しかし、現代のマラソンはスピード化していますので、瞬発力に優れた筋肉「速筋線維」が必要となります。これが日本男子マラソン界に顕著に出ている課題です。海外の選手は「速筋線維」が高く、スピード能力が高い選手が多いです。弱点としてはエネルギーが枯渇しやすい、粘りが足りない部分があります。

 中本選手や藤原選手は日本式トレーニングを積んできた特徴を持った選手です。この特徴は、運動しても乳酸値が低く、遅いペースであれば、ずっと走っていられるところにあります。彼らにとっては、暑くなって、ペースが遅くなればチャンスが高まると思います。
 一方、川内選手は遅いペースでも乳酸値が低くないのですが、ペースが上がっても乳酸値の上がりが高くない特徴を持っています。これは「中距離選手型」と言われる特徴です。前田選手も同様の特徴が見られます。ケニアの選手にも「中距離選手型」の特徴を持つ選手が多いです。世界のマラソンでは、そういった「中距離選手型」の選手が成功しています。川内選手や前田選手は、世界の主流に近いタイプですので、世界の戦い方で真っ向勝負しても勝つ可能性はあると思います。

 堀端選手は、「中距離選手型」に近い、世界の主流に近いタイプです。旭化成の宗監督に聞くと、マラソン練習はそれほど積めていないそうなのですが、とても良いタイムが出せるそうです。これは「速筋線維」を使って走る選手の特徴ですので、準備段階で練習を積み過ぎていると、エネルギー切れの怖さがあるので心配です。十分に練習量を落として、エネルギーの貯蔵量を増やすことができているか、「テーパリング」が鍵になると思います。
 福士選手の際にも指摘しましたが、テーパリングは練習不足に感じるかもしれません。ただ、エネルギーの貯蔵量を増やし、脱水症状対策にもなります。全選手に共通して言えることですが、テーパリングの実施、健康な状態に身体を持っていけるかが重要です。

 海外の選手はメダルを狙ってきますが、一方で粘りがないです。3位以内に入れないと分かると早い段階で諦める傾向がありますので、日本選手の入賞の可能性は高いと思います。さらに、女子マラソンや競歩を見ると、入賞ラインが崩れています。日本選手は夏場のマラソンに強さがありますので、入賞という意味ではチャンスは大いにあると思います。当日の条件次第というところだと思いますが、日本選手にもチャンスはありますので、最後まで諦めずに頑張ってほしいと思います。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント