大記録目前イチローを包む米国の祝賀ムード

杉浦大介

ジーター「決して休みを取らないことに最も感心させられる」

 他の大手メディア、同僚、他チーム選手の論調もほぼ同じ。彼らの言葉から例外なく滲み出て来るのは、長期にわたってハイレベルのパフォーマンスを保ち続けて来た痩身の外野手へのリスペクトだった。

「13年間も打ち続けるなんて簡単なことじゃない。(この記録は)彼の安定感を示しているのだろう。イチローに関しては、(コンディション調整で)決して休みを取らないことに最も感心させられる。ストレッチを日々続け、自身の身体を気遣っているからね」 デレック・ジーター

「これだけの数字を積み上げるというのは疑いなく凄いことだ。特に彼は日本でもサダハル・オーに匹敵するほど評価される選手だったんだろ? そして、アメリカに来て以降も殿堂入りに値する活躍を続け、2つの国で同じように素晴らしいキャリアを過ごしてきたんだからね」
 CJ・ウィルソン(エンジェルスの先発投手)

 日米通算4000安打は公式記録ではないし、そうみなされるべきでもない。“その価値がない”というのではなく、まったく違うリーグでの合計数は参考記録に過ぎないという理由で、ピート・ローズ(4256安打)、タイ・カッブ(4189安打)の数字と同列に並べられるべきだとも思わない。
 ただ、例えそうだとしても、ウィルソンが言う通り、イチローが2つの国で同じように結果を出し続けて来た事実が驚嘆に値することに変わりはない。ジーターが指摘する通り、長きに渡って徹底した準備を続けて来たからこそ可能になったという事実も語られてしかるべきのはずだ。

その瞬間は、同世代を過ごした人にとって特別な意味に

 イチローがメジャーに降り立ち、もう13年――。プレースタイル、所属チームに及ぼす影響などに懐疑的な意見はあったとしても、メジャーリーガーとしての彼が極めてユニークで、歴史に残る選手であることは誰も否定できない。
 10年連続200安打以上、シーズン262安打といったレコードを取り上げるまでもなく、そのキャリアは大げさではなくメジャー史上で永遠に語り継がれて行くだろう。そして今回の日米通算4000安打は、彼の軌跡を改めて振り返り、感謝を捧げる絶好の機会になるのではないかと感じる。

「何でもないようなことが、幸せだったと思う」
 かつての日本のヒット曲にそんな一節があったが、当たり前に思っていることが、実は凄いことだったと気付かさせられる瞬間というのは確かにある。

 イチローはこれまで、黙々と準備し、健康を保ち、アメリカでも日本でも同じようにヒットを積み重ねてきた。まるで何でもないことかのように、多くのベースボールファンを喜ばせる作業を続けて来た。
 その蓄積として、通算4000本。大記録というより、“感謝すべき節目”とでも呼ぶべきか。例え公式の記録でないと分かっていても、イチローがこの数字に辿り着く瞬間を見届けることは、同世代を過ごした多くの人間にとっても特別な意味があるのだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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