千葉対決制し市立船橋が誇示した強さ= 悲喜こもごもの夏を過ごした逸材たち

安藤隆人

青木、小泉は決勝で存在感を見せられず

流通経済大柏は準優勝に終わったものの、好タレントをそろえていた 【写真は共同】

 準優勝に終わった流通経済大柏は、決勝の舞台で青木、小泉が存在感を見せられなかった。名古屋グランパス、ジェフ千葉などが熱視線を送る青木は、右のサイドハーフに入り、柔らかなボールタッチと瞬間的な動きで、ドリブル突破でチャンスを作りだした。パスセンスにも長け、ゲームメークもできるが、この日は連戦の疲労からか、市立船橋の寄せにつぶされるシーンが多かった。

 小泉は『ボールを奪うスペシャリスト』と言えるほど、インターセプトの能力が高く、展開力も高い。

「本田(裕一郎)監督からはいつも『相手を読め』と言われている。駆け引きしながら、相手が何がしたいのかを読んだら、そこから相手に対してひるんだらダメ。強気でファウルギリギリでも積極的にいかないといけないと思っている」(小泉)

 今大会でも彼のインターセプトは冴(さ)えに冴えた。2回戦の強豪・大津(熊本)戦では、タレントそろいのアタッカー陣に対し、鋭い出だしでピンチの芽を摘むだけでなく、キレのあるドリブルで何度もバイタルエリアに侵入し、チャンスを作った。だが、決勝では市立船橋の石田との1対1で後手を踏むなど、悔いが残る出来であった。

 だが、彼らの能力が高いのは間違いない。2人のほかにも、決勝で2得点を挙げたMF森永卓、今大会直前でメンバー入りし、1トップとして前線の起点となったFW立花歩夢。左サイドバック、左サイドハーフ、ボランチで高い攻撃力と献身的な守備を見せた石田和希らが織りなす、質の高いポゼッションサッカーは、間違いなく高校・ユース世代ナンバーワンと言えるものであった。だが、決勝の相手が千葉県内の最大のライバル・市立船橋であったことで、難しい戦いになっただけであった。

パサーとしての能力も見せつけたオナイウ

 決勝までたどり着けなかったチームにも、多くの光るタレントたちがいた。初の全国ベスト4に輝いた正智深谷(埼玉)のFWオナイウ阿道は、今大会を通じて成長を遂げた。ナイジェリア人の父を持つハーフで、一見すると身体能力に頼ったストライカーに見られがちだが、実は視野が広く、足元の技術、キックセンスに長けたパサーとしての能力が高い。今大会でもFWながら2列目までポジションを落とし、ボールを受けてラストパスを供給するシーンが多く見られた。準々決勝の星稜(石川)戦では、2得点2アシストの大暴れ。市立船橋との準決勝では、厳しいマークを掻(か)いくぐり、ボールキープと正確なパスで存在感を放った。

「まだまだ後ろ向きでボールを受ける回数が多い。もっと前を向いて仕掛けていかないと。パスに対しては自信がついたが、点を取らないといけないし、マークがきつくなったからと言って取れないようでは意味がない」(オナイウ)

 大会前から注目を集めたオナイウには、どの試合も複数のマークがついた。なかなか自由を与えてもらえない状況に苦しみながらも、しっかりと能力は見せつけた。だからこそ、もっと試合をこなしていくことで打開力が鍛えられ、よりスケールアップしていく可能性がある。冬にはさらに注目度は増すだろう。そうなるとよりマークが厳しくなるが、逆にそれだけオナイウが成長する可能性も増していくはずだ。

逸材たちが手にした冬に向けた貴重な経験

 同じくベスト4入りした真岡(栃木)は、1年生・神山皓亮、2年生・規矩智涼平の両サイドハーフが躍動。全国を経験し、どこまで伸びてくるか楽しみな存在だ。準々決勝で市立船橋に0−5で大敗をした帝京大可児(岐阜)は、鹿島アントラーズ入団が内定しているMF杉本太郎、MF三島頌平と、3回戦の國學院久我山(東京)戦でハットトリックを達成した2年生MF藤田章太郎の動きが光った。杉本は複数の敵に囲まれても、ボールを失わない技術は随所に見られたし、ワンタッチプレーや判断の速さはさすがであった。だが、市立船橋戦では全く持ち味を出せなかったが、「目が覚めた。強烈なパンチを受けました。もっと冬までに個の力とチーム力を上げていかないといけないと思った」とその分、強烈な教訓を得て、福岡の地を後にした。

 3回戦で真岡にPK戦の末に敗れた立正大淞南(島根)も、全国的に力のあるチームだった。サンフレッチェ広島などが注目する左サイドバック高橋壮也、長身センターバック佐藤拓真、MF熊田克斗など、個性的な選手がおり、冬にはもうワンランク上のアタッキングサッカーを見せてくれるだろう。同じく3回戦で星稜に敗れた中京大中京(愛知)は、湘南ベルマーレ入団内定のFW宮市剛がけが明けで、まだ万全ではなく、本来のプレーを見せられなかった。それだけに最後の冬にはしっかりと照準を合わせ、春先に見せていた高いパフォーマンスを見せてほしい。

 1、2回戦で見ると、流通経済大柏に敗れた大津、鹿児島城西(鹿児島)に敗れた作陽(岡山)、滝川第二(兵庫)に敗れた東福岡(福岡)は、今後が非常に楽しみなチーム。中でも大津の1年生センターバック野田裕喜は、高い能力を持ちながらも、流通経済大柏の猛攻に何もさせてもらえなかっただけに、経験を積んだという意味でこれからが非常に楽しみな逸材だ。プロ注目の快速アタッカーである作陽の平岡翼も持ち味を出せぬまま終わり、東福岡の期待の2年生アタッカー・中島賢星もほろ苦い大会となった。冬に向けて、この不完全燃焼をどう力に変えていくかが注目だ。

 悲喜こもごものこの夏を、どう成長の糧にしていくのか。高校選手権という、高校生の夢の舞台に向け、自己研鑽(けんさん)という名の戦いはすでに始まっている。

<了>

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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