佐藤公哉のF1ドライバーとしての可能性=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第10回
“強烈”なF1マシン
「とにかく敏感です。ステアリングを切ると、瞬時にフロントが反応します。右に切れば考える間もなくクルマは右に曲がっている。AutoGPではステアリングを切ってもクルマはゆっくりと曲がります。もちろん、F1に乗るまではそんなことは感じませんでした。しかし、F1を経験したらAutoGPはそう感じられるはずです」
「もうひとつ驚いたのはブレーキです。AutoGPのスチールのディスクと比べ、F1のカーボンブレーキは強烈な効き方をします。つまり、コーナーがあっという間に迫ってきてあっという間に去っていくという感じです。ガツンと踏むのですが、これは強烈でした。最初は使い方が分からなくてどこで踏めばいいか迷ったのですが、慣れると強烈です」
そして、問題もあった。それはベケッツのような高速コーナーを走ると、首にかかるGが恐ろしく強烈(強烈という言葉が良く出てくるが、F1はそれほど強烈と言うこと)で、走りながら佐藤選手はこう思ったと言う。「このスピードで何周も走ると、絶対に首が悲鳴を上げる。こりゃあ鍛えなきゃいかんぞ」と。
ベッテルから得た自信
「ザウバーにはミディアムとハードのタイヤしかなく、タイムを出す状況ではありませんでした。午後にはクルマにも慣れてきたのでタイムアタックもしようと思いましたが、風が強くほこりがコースを覆った状況で、結局タイム短縮は無理でした。チームもそのことはよく理解してくれており、一定の評価はいただいたと思っています」
彼の冷静さは、次のような言葉に表れている。
「タイヤは性能劣化が激しく、あっという間にグリップがなくなりました」
「走行中にエンジニアが無線で喋ってくれるのですが、まるでロボットのように無機質で、必要なこと以外はひと言も喋りません。クルマを降りて一緒に食事をする時などには冗談も言い合ったのですが、仕事中はまるでロボットのようでした。プロの仕事の仕方を学びました」
最後に、佐藤公哉選手が経験した中で最も有意義なことは?
「ベッテルと一緒に走ることができたことです。『ベッテルが後ろから来るぞ』と無線で連絡をもらったときには、邪魔しないように避けなければとビクビクしながら走ったのですが、同じタイヤで後ろについて走った時には5周ほど離されることなく走ることができました。これは自信につながりましたね」
F1のすごさを経験して、佐藤公哉選手は自分の中の何かが変わったことに気づいたはずだ。その経験を糧に、シーズン後半戦のAutoGPでは一気にトップを確実なものにし、チャンピオンに向けて突っ走ってほしい。それにしても、彼の話を聞くにつけ、現役F1ドライバーのすごさには圧倒される。佐藤選手も近いうちの彼らの仲間に入ることだろう。その日は案外早く来るかもしれない。おっと、その前にイタリア・ビザだ!
<了>
『AUTOSPORTweb』
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