22歳・浅村栄斗が描く新たな“4番像”=好調支える今季始めたふたつの取り組み

中島大輔

左肩の脱臼が思わぬ産物になる

 悔しい1年を経て、今季はふたつの取り組みを始めた。昨季までは無心で構え、ストライクゾーンに来たボールはすべて振りにいく心つもりだったが、今年から相手の投じるボールを予測するようになった。
「配球が読めるというか、考えるようになりました。考えるようになったのは、結果を出したいから。打席で余裕がなかったら、考えられませんからね」
 余裕を持てるようになったのは、88試合を終えてリーグトップの65打点、同4位の打率3割2分9厘と結果が出ていることが大きい。好成績につながっているのは、春季キャンプからの取り組みだ。
「右方向に強い打球を打てるようになっているので、思い切りスイングしなくていいときもあります。ボールも飛ぶようになったし、オフからキャンプまでそこに取り組んできましたからね。右を狙うのは、打率を残すためです」
 右方向への打撃において、プラスに働く出来事もあった。6月21日のオリックス戦で、強振した際に左肩を負傷したことだ。負担を減らため、左肩を開かないように心掛けると右方向へのヒットが増えた。このアクシデントが思わぬ産物になったと安部理打撃コーチが言う。
「浅村が今年一番良くなったのは、右方向にしっかり打てるようになったことだね。追い込まれても強引なスイングではなく、センターから右を意識していることが結果につながっている。左肩の脱臼があってから、強引にいっていない分、しっかりボールを見極められている。頭が動くと反対方向には打てない。軸がしっかりして、目線がブレないようになった。『ケガの功名』じゃないけど、良い形で振れている」

秋山はライバル心をむき出しに

 逆方向を意識しチャンスで走者をかえすだけでなく、渡辺監督の期待するもうひとつの働きも果たしている。7月28日のオリックス戦では1対0で迎えた3回2死にレフト前安打を放ち、すかさず盗塁を決めた。“グリーンライト”の浅村がチャンスメークすると、連打と四球、さらに連打で4点が入った。
 この試合で4安打3打点の活躍を見せた5番の秋山翔吾は、2歳下の浅村にライバル心をむき出しにしている。
「僕の調子が落ちてくると、浅村が歩かされることがあります。そういうのはされたくない。相手になめられないように、自分の状態を上げていかないと」
 チームメートを刺激し、相乗効果を与えているのも見事な4番の働きと言えるだろう。打線の中心に座っている浅村を、安部コーチは頼もしく見ている。
「若い選手は結果が出れば、自信になる。良い過程の中で、良い結果が出るのは大事。そうやって主軸になっていく。浅村はフルスイング1本だけじゃなく、広角に打つ方法をつかみつつある。ライオンズを担っていく可能性を秘めているし、そうならなくてはいけない」

 4番に座って以降、浅村は打席での心持ちが変わった。
「シーズン当初より、より丁寧に、という気持ちですね。もったいなかった打席にはしたくない。シーズンを通したらそういう打席もあるけど、より少なくするように。ボール球を振らないとか、アウトのなり方にもこだわっています。ファーストを守っているから打たなくてはという気持ちも、もちろんありますよ。外国人にパワーでかなうわけではないので、余計に気持ちを入れていますね」
 本人の言うように、“いわゆる4番打者”タイプではない。しかし、今季の西武打線を誰よりもけん引しているのは、監督の狙いを忠実に遂行している浅村だ。
 打撃、走塁で思い切りの良さを持ち味とする22歳は、自身の手で新たな4番像を描いている。

<了>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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