“和製ボルト”飯塚翔太が描く成長曲線=「桐生らより大きなインパクトを」

折山淑美

「満足いかなかった」ロンドン五輪から1年、世界選手権へ順調な仕上がりを見せる飯塚に、今の思いを聞いた 【スポーツナビ】

 100メートルの桐生祥秀(洛南高)と山縣亮太(慶応大)が注目される男子短距離。しかし、もう一人注目すべき選手がいる。飯塚翔太(中央大)だ。5月の静岡国際陸上200メートルで20秒21と世界選手権(8月、モスクワ)の派遣設定記録を突破し、6月の日本選手権でも20秒31で初優勝を果たした。また、400メートルリレーの柱になるべく、7月のユニバーシアード(カザン)では追い風参考ながら20秒33で銅メダルを獲得して順調な仕上がりを見せている。

「海外を転戦してから大きな大会へ行くのは初めてでしたが、日本とは違って、僕が得意とする後半で出てきたりする選手と競り合うレースをすることや、時差調整などの経験を積むために、失敗してもいいからと日本選手権後にヨーロッパに行ってからユニバーシアードへ回ったんです。それはうまくいったのですが、移動などでも荷物が遅れたりとかうまくいかないことだらけ。でも、そういうことも経験できて良かったと思います」

満足いかなかったロンドン五輪

 飯塚は大学1年だった2010年の世界ジュニア200メートルで優勝し、“和製ボルト”として注目された選手だ。だが、翌11年は太ももの肉離れなどで練習をうまく積めず、世界選手権出場も逃していた。
「僕の場合は身長があるわりに体を速く動かすから、一発ボーンと走れるけれど、その後の(体への)代償も大きい。だから、1日3本くらい走れる体を作るのが最初かなと思ったんです」と、11年の冬からは体作りも意識した。その結果が12年の日本選手権での20秒45の自己新につながり、2位に入ってロンドン五輪出場を果たしたのだ。

「でも、去年はベストを出せたのは良かったのですが、五輪は満足いかなかったですね。個人の200メートルでは高平慎士さんと高瀬慧さん(ともに富士通)は準決勝へ行ったのに僕だけ予選落ちしたし。リレーでおいしいところだけをもらった感じで、決勝ではラップタイムも落としてしまいましたから。予選では良いところでバトンをもらったから、これで抜かれたら今日の居場所が無くなると思って走ったんです。そういう追い込まれた時にすごい力が出るなというのは分かったけれど、『もしかしたら』と思った決勝では逆に硬くなってしまって。本当に心がすごく走りを左右させるなと分かりました」

 ロンドン五輪のリレーでは、自分が心さえうまく調整すれば爆発的な力が出せることを知った。だが、個人のレースではスピードの違いを実感させられた。ジュニアの時には余裕でついて行けた前半で勝負をつけられてしまったからだ。
「スピードもそうですが、勉強になったのはトップ選手たちの試合へ向けての気持ちの盛り上げ方でした。アップの時は普通でも、レースに向けて徐々に上げていって、本番直前には観客を利用して気持ちをバーンと盛り上げるんです。僕の場合は満員の観客に圧倒されて『スゲー』と思うだけで、プチンと切れてしまったというか、周りを見る余裕もなくて自分を盛り上げられなかったんです」

自己ベストを生み出した海外修行と桐生の存在

桐生が10秒01をマークしたことに刺激を受けたという飯塚。「年下には負けたくない」と対抗心を燃やす 【スポーツナビ】

 こう話す飯塚は、五輪を経験してスタートラインにたった時の気持ちの持ち方をどうすればいいかというのがある程度分かったという。それでもう少し余裕を持ってスタートラインに立てるためにと、冬の間からオーストラリアに行って速い動きを維持したトレーニングをし、春先には米国へ練習に行った。「スピードがある選手と一緒に走る中で、自分の走りをしっかりできるように」という狙いからだった。

「今回はジャスティン・ガトリン選手(米国)のチームで一緒に練習をさせてもらったのですが、そこで一緒にやって彼らの練習を体感すれば、得るものはあるなと思ったんです。ただウエイトに関しては、これまでやっていた自分のメニューを崩さずにやって、向こうの選手のは『こうやってるんだ』と見ていただけ。でも、スタートに関しては『こうやった方がいいよ』などとアドバイスもされたりして、少し教えてもらいました」

 飯塚はこれまで、自分のスタートをどうすればいいのか分からず迷いがあったという。だが米国でのアドバイスでスタートも改善され、100メートルでエントリーした4月の織田記念も、大幅な自己ベスト更新も可能だという思いで臨めた。

「織田記念では10秒28のベストを出しましたが、(同組を走った)桐生の10秒01のインパクトもすごかったですね。年下には負けたくないと思っていたけれど、去年は山縣が頑張っていた上に、それより年下の桐生が出てきたから。ただ、僕自身は織田記念の100メートルも思っていたより伸びなかったから、静岡国際まではちょっときつかったですね。3月は調子が良かったので、派遣設定記録の20秒29も出せるかもしれないと思っていましたが、あの期間はなかなか自信を持てなくなってしまって。その後の静岡国際では、前の組で橋元晃志(早稲田大)が20秒35を出したので気合いが入ったし、実際に20秒21を出せてやっと、『やっぱり(派遣設定記録を突破できた)』みたいな気持ちになれました。桐生の登場はみんなの刺激になったと思いますね。結果を出せば桐生のような丸刈りでも人気が出るし、みんなが注目してくれるんだというのも分かったから」

1/2ページ

著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント