ゲイまで……深刻化するドーピング問題=違反選手に欠如するフェアプレー精神
ジャマイカ勢は泥沼化の様相
ドーピング検査で陽性反応が出たアサファ・パウエル。彼の母国・ジャマイカでは、若年層のドーピングまん延も懸念されている 【Getty Images】
彼らはキングストンのジャマイカ工科大学を拠点とするMVPトラッククラブのエリート選手。検査結果が発表された際、欧州遠征の拠点のイタリアに滞在中していたため、当地の警察がホテルの部屋を捜索するなど、物々しい状況となっている。
パウエル、シンプソン共にサプリメントを取ったことは認めているが、「身に覚えがない」と禁止薬物を意図的に摂取したわけではないと主張。クラブぐるみの使用なのではないかとの噂も流れたが、彼らの代理人が雇ったカナダ人トレーナーが薬物を提供したというニュースも入った。それを受けて代理人が「トレーナーの経歴を調べずに雇ったのは私の責任」と謝罪するとともに、「トレーナーが悪い」と責任転嫁。一方、トレーナーは「自分は悪くない。許可されているサプリを渡しただけ」と反論。クラブを指導するフランシスコーチは「選手は悪くない。代理人の責任。禁止薬物など我がクラブでは与えていない」と話すなど、泥沼化の様相を見せている。
若者にも広がるドーピング
一方、レイサーズ・トラッククラブは、09年にロンドン五輪100メートル銀メダルのヨハン・ブレーク、マービン・アンダーソンなど同クラブの4選手がメチルヘキサナミン(当時はWADAの禁止薬物には指定されていない)で3カ月間の出場停止処分を受けている。
今季は、6月に女子400メートル選手のドミニク・ブレークが昨年の五輪選考会での検体からメチルヘキサナミンが検出され、2度目の違反で6年の資格停止処分を、キャンベルブラウンが違反薬物を隠蔽(いんぺい)する、いわゆるマスキング薬物の使用が発覚するなど、その手のニュースが後を絶たない。
キャンベルブラウンはジャマイカ陸上の『クイーン』とも言える存在であるため、多くが衝撃を受けたが、パウエルのドーピング発覚はそれ以上で、国全体が重苦しい雰囲気に包まれている。
ダーティーなイメージがついてしまったが、ジャマイカ反ドーピング委員会がキャンベルブラウンやパウエルといったスター選手のドーピングを隠蔽(いんぺい)せず、公表した点は多いに評価ができる。とはいえ、今回、陽性反応を示した選手の中にはジュニア選手や大学生も含まれ、若年層にもドーピングがまん延していることが伺える。ジャマイカはさらなる厳正な検査とともに、若い選手への啓蒙(けいもう)活動も必要になってくるだろう。