スポーツ選手活躍の背景に各国のお国事情=「為末大学 陸上部」

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文化的成熟度が経済成長に追いついたカタール

ロンドン五輪の走高跳で銅メダルに輝き、カタール国旗を掲げるバルシム。近年の国を挙げた選手強化が結果に結びついた 【Getty Images】

 そういう視点で、ダイヤモンドリーグに参戦する選手の国を見ていくと、各国の情勢や方向性、文化・芸術・スポーツに対する成熟度などがうかがえて面白い。個々の選手の背景や他選手との関係性を知って見ると面白いのだが、それとはまたひと味違う楽しみ方と言ってもいいかもしれない。

 例えば、カタール。オイルマネーで急速に裕福になったこの国は、経済的基盤が整ったあたりから、スポーツにも力を入れるようになってきた。国際大会の招致にも積極的に乗り出し、とうとう2022年のサッカーワールドカップ開催も射止めている。五輪招致にも16年、20年と連続して立候補、24年以降も招致の継続を表明している。
 ダイヤモンドリーグ第1戦として毎年5月に開催される「カタールスーパーグランプリ」は、1997年から始まった、いわば“新参者”。しかし、今では上海(中国)とともに、“アジアで行われるダイヤモンドリーグ”として認知度を高めつつある。

 並行してカタールは選手強化にも力を入れてきた。活躍の場は、アジアレベルの大会から、徐々に世界へと広がってきている。ただし、それを担ったのはアフリカを中心とする国々からカタールへと国籍変更した選手たちだった。カタールの念願かなって2006年にドーハで開催したアジア大会のころに話題となり、ずいぶん批判もされたから、覚えている人も多いだろう。

 そんななかで彗星(すいせい)のごとく現れたのが、男子走高跳のムタズ・エサ・バルシムだ。先日、22歳になったばかりの彼は生粋のカタール人。10年に世界ジュニア選手権で優勝すると、翌年にはアジア選手権に勝ち、昨年はロンドン五輪で銅メダルを獲得してしまった。その勢いはとどまることを知らず、今季はダイヤモンドリーグ第4戦の米国・ユージン大会で世界歴代4位タイ(当時)となる2メートル40のアジア新記録を樹立。その後、ボーダン・ボンダレンコ(ウクライナ)が2メートル41を跳び、現時点では世界歴代5位タイとなるが、今世紀に入って2メートル40を跳んだのは、この2人とビャチェスラフ・ヴォロニン(ロシア)の3人のみだ。世界陸上モスクワでは、優勝候補の筆頭に名を連ねるまでになっている。

 こういう経緯を見ていると、僕は「おお、そういうステージに入ってきたんだな、この国は」と感じる。カタールの場合は、たくさんあるお金をだんだんスポーツや芸術、科学などに使えるようになって、ようやく文化的成熟度が経済成長に追いついてきたのだろう。他国から持ってくるしかなかった強い選手も、とうとう自前で輩出できるようになってきたと見ることができるのだ。

平和な生活があってこその競技スポーツの発展

 異論を唱える人もいるかもしれないが、僕は、スポーツというのは、結局のところ先進国と、それに追いつけ追い越せと開発や発展の進んでいる国のものだと思っている。なぜなら、援助を受けないと生きていけない、食べていけないという状況では、スポーツに取り組む余裕はないはずだから。
 衣食住が確保され、平和な生活が送れるようになって初めて、余暇を楽しむことができるようになる。文化や芸術、スポーツなどは、そうしたなかで成熟していく。競技スポーツの発展などは、その最たるものと言えるだろう。だからこそ、僕は競技スポーツの世界で活躍する選手が、たくさんの国からどんどん出てくるようになってほしいと願うのだ。
 ダイヤモンドリーグを見るとき、そんな背景の部分に思いをはせながら、「あ、こんな国の選手が、強くなってきたぞ」と応援するのも、夢があって楽しいではないか。
 さらに、僕の場合は、ついそこでGDP(国内総生産)なんかと結びつけて、いろいろな係数を入れてみようとしてしまう。思いがけない面白い側面を発見して、自分が新しいアクションを起こすきっかけになってくれるかもしれない、とワクワクしながら――。

<了>

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