イチローが象徴してしまったヤンキースの駒不足
キャプテン不在の影響
キャプテンのジーター(左)ヤンキースの中心には、やはりこの人が欠かせない。写真右はヌネス 【Getty Images】
「去年ここに来たときからずっと言っているように、やってくれと言われたときに僕がいればいいと思っていますから」
本人のそんな言葉にあるように、ヤンキースでのイチローは基本的には足りない部分を補完するロールプレーヤーだったはず。その選手が目立ってしまい、不可欠の1人になっていることが、2013年版ヤンキースの駒不足を何より象徴しているとも言えるのだろう。
手を替え品を替え、上位に残り続けた前半戦でのヤンキースの戦いぶりはある意味で見事ではあった。イチロー自身も感じてきたのであろう「何とかしようという想い」を、新加入の選手たちがそろって抱いてプレーしたがゆえに可能になった大健闘。もう10年以上もニューヨークに住んできた筆者の目にも、今季のチームの戦い方は新鮮に映り、同時に伝統の強さを感じたものだった。
ただ……それにも、限界がある。
「(最近は)勝つと良い雰囲気になるけど、負けるとねえ。安定している感じがしない。(ヤンキース)らしくないと言えばらしくない。やっぱりジーターが長いこといないのが大きいと思います」
去年の移籍当初はヤンキースの“戦いに臨む姿勢”を絶賛していたイチローも、その部分の変化を感じ取っているようである。
必死のやりくりには必要以上のエネルギーが必要で、疲れも徐々にたまる。一発勝負のトーナメント戦でならサプライズの快進撃が可能でも、長丁場のペナントレースではそうもいかない。ロイヤルズ、ツインズといった下位チームにも地元で3勝4敗と苦戦した前半戦終了間際のヤンキースからは、歴戦の疲労が確実に感じられたものだった。
待たれるジーターの復帰
7月終わりのトレード期限に多少の犠牲を払ってでも補強に挑むか、あるいはアレックス・ロドリゲス、グランダーソン、ジーターらの帰還を辛抱強く待つか。特にイチローも名前を挙げたジーターのグラウンド内外での存在感は、やはりヤンキースには絶対必要な要素に思える。
かつて某チームのスカウトから、「苦しい状況になると、ヤンキースの選手たちはいつもジーターの方を見る」という話を聞いたことがある。7月11日に“ジーター復帰”の報が流れた後、試合前のロッカーで他の選手たちが異様にそわそわして見えたのも気のせいではなかったのだろう。
「ジーターさんが帰ってくることを願いましょう」
イチローのそんな素直な願いは届くのか。11日に電撃カムバック後、右足に張りを訴えて再離脱したキャプテンは後半戦に戻ってくるのか。
それですべてが解決するわけではもちろんないが、いなくては始まらない。精神的支柱が不在のまま、ヤンキースが今後も持ちこたえていく姿を想像するのが少々難しいのは紛れもない事実なのである。
<了>