イチローが象徴してしまったヤンキースの駒不足

杉浦大介

“スター”が消えたヤンキースのロースター

主力の離脱で苦しむヤンキースにあって、活躍が光る39歳のイチロー 【Getty Images】

 ヤンキースのクラブハウスに入ると、大抵はイチローがフロアに横たわってストレッチを行なっている姿が目に入る。
 試合前も、試合後も。好調時も、そうではないときも。慣れ親しんだシーンを見ると周囲は安心感を覚えるものだが、今季前半戦のヤンキースの中では、そのような“決まり切った物ごと”というのが実に少なかった。
 故障者続出と緊縮財政ゆえに、多くの耳慣れない選手がロースターに名を連ねる毎日。デレク・ジーター、マーク・テシェイラ、カーティス・グランダーソンがやっと復帰したかと思えば、すぐに再び戦線離脱。まるでジェットコースターに乗っているかのような波乱の前半戦だった。
「選手たちはここ(ヤンキース)に来ると、何とかしようという想いが生まれてくる。それはおそらく他のチームにはない。それが前半戦にはあったと思うんですよ」
 イチローがそう振り返った通り、未知数の選手を数多く登用する厳しい起用法を余儀なくされながらも、ヤンキースはここまで51勝44敗。特に序盤戦では、バーノン・ウェルズ、トラビス・ハフナー、ライル・オーバーベイといった開幕直前に駆け込み移籍して来たベテランたちの貢献が光った。6月11日(現地時間、以下同)以降は14勝18敗でジリ貧の印象も残ったものの、チーム状況を考えれば前半戦は大健闘と言って良かったのだろう。

苦境のチームを支えるイチローの働き

 その中で、イチローも確実に存在感を築いてきた。6月は打率2割9分2厘、7月は打率3割5分3厘(掲載時点)と尻上がりに調子を上げ、5月25日以降では48試合で打率3割2分2厘、出塁率3割5分9厘。打率は主砲ロビンソン・カノに次いでチーム内2位であり、開幕当初は下位が多かった打順も最近は1、2番にほぼ定着した。
 今季を通じて見ればすでにスター級の成績ではないのは確かだが、走攻守がすべてそろい、外野の3つのポジションをこなしてくれる39歳は依然として貴重な戦力である。サヨナラ本塁打を放った6月25日のレンジャーズ戦、あわやサイクルの3安打でチームをけん引した7月4日のツインズ戦に代表されるように、重要な場面での活躍も少なくなかった。
「展開的に走者が必要な場合には意外に辛抱強く球数を投げさせたかと思えば、無走者のときに長打を狙って来る場面もある。状況に応じた打撃を考えながらこなしているように見えるね」
 ロイター通信のベテラン記者、ラリー・ファイン氏にヤンキースでのイチローについて尋ねても、そんな好意的な評が返ってきた。
 5月中旬には打率2割3分台まで下がり、グランダーソン復帰とともに「レギュラー落ちの危機」と騒がれたのも今は昔。そこから再び結果を残し、同時にけが人たちの足並みがそろわないこともあって、イチローは今やヤンキースになくてはならない存在になったと言って大げさではない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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