第3のCB・栗原勇蔵に問われる本気度=いまこそ覚醒すべき未完の大器

元川悦子

拭えなかった「お客さん意識」

敵地のオーストラリア戦でゴールを決めるなどW杯出場に貢献。本大会までの残り1年でどこまで成長できるか。本気度が問われる 【Getty Images】

 10代のころから「松田直樹に匹敵する身体能力を誇る大器」と期待され、岡田武史前日本代表監督にも「ものすごいポテンシャルを持った選手。このまま終わってもらっちゃ困る」と繰り返し言われてきた栗原勇蔵。しかし、破天荒そうに見えて意外にナーバスな性格が災いしたのか代表定着は遅く、ザックジャパン発足後から本格的に常連メンバーとなった。

 それでも本人の中ではどこか「お客さん意識」が拭えなかったようだ。今の代表は北京五輪世代が中心で、1世代上の彼にはちょっとした疎外感があるのかもしれない。「自分は代表に行くといつもピリピリしてる。真司なんかミーティングに遅刻しそうになって長谷部(誠)に怒られそうになってたけど、俺なんか絶対に遅刻できない。だからかなり前に行ってる」と苦笑いしたこともあるほどだ。

 こうしたメンタル面と、11年アジアカップ(カタール)を棒に振ったことで、この2年半、彼は「第3のDF」の位置づけから脱しきれなかった。チーム発足初戦のアルゼンチン戦(埼玉)では1−0の完封勝利に貢献し、吉田が負傷離脱した昨年6月の最終予選・ヨルダン戦(埼玉)とオーストラリア戦では得点も奪うなど要所要所でいい仕事をしてきたが、ザッケローニ監督の吉田や今野への絶対的信頼は揺るがなかった。

「W杯に行けたら人生が変わる」

 しかし、今回のコンフェデ杯で、吉田と今野の両センターバックは数多くの失点に絡み、力不足を突き付けられる格好となった。彼らへの依存体質の不安が増し、南アフリカW杯16強戦士である中澤と田中マルクス闘莉王の代表復帰を熱望する声も高まりつつある。そんな中、ザックジャパンに長い間、名を連ねてきた栗原は意地を見せなければいけない。本田も「ブラジルやイタリア、メキシコ、その上にはスペインもいる。彼らも成長するから、それを上回るには覚悟を持ってやらないといけない」と語気を強めていたが、まさに栗原にもこの1年間、自身の成長にすべてを懸けるくらいの「覚悟」が求められる。

「カズ(三浦知良)さんだって出られなかったW杯に行けたら人生が変わる。両親やお世話になった人たちにも恩返しができる」と本人もしみじみ話していたことがあった。それを実現するために、いまこそ自分自身を奮い立たせるべきなのだ。周りを鼓舞したり大声で指示したりと、栗原は表立って感情を出すタイプではないが、守備陣を統率するためにはそういう要素も必要だ。もっと自分をアグレッシブかつ意欲的なプレーヤーに変えていく努力も必要だろう。

「いま出ている選手に危機感を与えられるようにならないとダメだと思う。監督がここで1回、リセットして競争させてくれるなら、それをきっかけにチャンスをつかんでいかないといけないと思う」と彼は言う。

東アジアカップは一皮むける絶好のチャンス

 さしあたって欧州組とJ2の今野と遠藤保仁が招集免除となる7月の東アジアカップ(韓国)は、栗原が一皮むける絶好のチャンスだ。ここで際立ったリーダーシップを発揮し、オーストラリアや韓国を完封できれば、指揮官も吉田らとの併用を考えるかもしれない。他のメンバーも闘志むき出しにアピールを繰り広げるだろうから、それに勝つ気迫をぜひとも見せてほしい。

 加えて、J1優勝争いを繰り広げている横浜FMでの活躍も欠かせない。中断前時点で3位にいる彼らの総失点は13で、リーグ最少の大宮アルディージャの9、サンフレッチェ広島の10、セレッソ大阪の12より多い。日本代表を背負うべきCBのいるチームが最少失点で抑えられないのはやはり物足りない。Jの舞台でも特筆すべき結果を残し、チームに9年ぶりのリーグタイトルをもたらすことができれば、1年後の本大会にも大いに弾みがつく。

 第3のDFから世界を跳ね返す守備の大黒柱へ。残り1年、栗原勇蔵の「本気度」が問われる。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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