タヒチの勇気ある冒険に胸を熱くする=コンフェデ杯通信2013(6月17日)
オセアニアしか知らなかったタヒチ代表
レシフェの海岸線を散策するとビーチサッカーに興じる人々の姿が目に入って 【宇都宮徹壱】
あらためて、タヒチにとっての今大会に対する位置付けを考えてみたい。まず、彼らは決して「オセアニア最強」というわけではない。もちろんOFCネーションズカップの優勝チームではあるのだが、彼らはこの大会で1度もニュージーランドと対戦していない。ニュージーランドは準決勝で、ニューカレドニアに0−2で敗れてしまったからだ。そのニューカレドニアに対し、決勝でタヒチが1−0で競り勝ち、見事にオセアニア王者となったわけだが、オセアニア内のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングを見ると、138位のタヒチは、ニュージーランド(57位)、ニューカレドニア(97位)に次ぐ3番手。ワールドカップ(W杯)予選も、オセアニア最終予選まで進んだものの3位に終わり、プレーオフ進出の道を絶たれている。
一方で気になったのが、タヒチの「国際経験」である。これまでタヒチのA代表は、1度としてオセアニア域外の国際大会に出場した経験がない(2009年のU−20W杯には出場)。ゆえに、ずっとオセアニア域内のチームしか知らず、その中での最強チームは、AFC(アジアサッカー連盟)に転籍する前のオーストラリアであった。とはいえ、さすがにヨーロッパやアフリカは厳しいにしても、たとえばアジアや北中米カリブの国々との対戦経験はあるのではないかとFIFAの検索システムで遡(さかのぼ)ってみたのだが、少なくとも1973年以降は1度もオセアニア以外のチームと対戦していないことが判明した(それだけオセアニアという地域は、世界のサッカー界から孤立した存在だったのだ)。
つまり、この日のナイジェリア戦はタヒチの選手たちにとり、単なる「格上との戦い」以上に、A代表としては実質的に初となる「オセアニア域外」の強豪との対戦ということになる。われらが日本代表にとっても、今大会は「世界の強豪とガチで戦える貴重な機会」であるが、ずっとオセアニアしか知らなかったタヒチにとって、このコンフェデ杯は日本以上に「未知の世界との戦い」だったのである。
見る者の心を揺さぶったタヒチの戦い
FIFA主催大会初得点という歴史的なゴールにタヒチイレブンは喜びを爆発させる。彼らのプレーは見る者の心を揺さぶった 【Getty Images】
当然、ナイジェリアが攻め込んでタヒチが防御に回るという展開が予想された。しかしタヒチは、序盤から積極的に前に出る戦いを選択。意外と敵陣でもパスが回り、ナイジェリアに先んじてファーストシュートを放った。タヒチのサッカーはもちろん初見だが、しっかりパスをつなぎながらワイドに仕掛けるスタイルは明確だった。とはいえFIFAの国際大会で、いつまでも自分たちのサッカーをやらせてもらえるほど、アフリカチャンピオンはお人好しではない。タヒチは前半の5分、10分、そして26分に立て続けにナイジェリアにゴールを奪われてしまう。3点とも、相手のシュートが味方に当たってコースが変わったり、GKのファンブルを詰められたり、確かに不運な面があった。しかしながら、技術とスピードとプレー強度において、明らかにタヒチがナイジェリアに見劣りしていたのも事実である。前半はナイジェリアの3点リードで終了。
この試合のクライマックスは後半9分であった。左サイドからのバヒルアのコーナーキックに、ファーサイドのホナタン・テハウが角度のないところから高い打点でヘディングシュートを放ち、ナイジェリアゴールを揺さぶる。これが「FIFA主催大会初得点」という歴史的瞬間となり、メンバー全員が破顔一笑でカヌーを漕ぐゴールパフォーマンスを披露。判官びいきでタヒチを応援していたブラジルの人々も、大きな拍手と声援でこの快挙をたたえた。だが、反撃もそこまで。やはりタヒチにとって、ナイジェリアのパフォーマンスは「異次元」であった。次第に足も止まり、気持ちに体がついていけない状態で失点を重ねてしまう。4点、5点、6点。終わってみれば、1−6の完敗であった。
試合後、スタンドからの声援に、万感の表情で応えるオセアニア王者の表情が、非常に印象的であった。この日のタヒチは、勝ち負けよりも「FIFA主催大会初得点」を何より優先させるような戦い方をしていた(彼らは09年のU−20杯に出場していたが、グループリーグ3戦全敗、0得点21失点だった)。ゆえに、この試合をもって安易にタヒチと日本を比較することについては、慎重であるべきだとは思う。それでも、この日彼らが見せた「勇気ある冒険」が、見る者の心を大きく揺さぶったことについては留意すべきであろう。前日のスペイン対ウルグアイといい、そしてこの日のタヒチ対ナイジェリアといい、今大会はいろいろと学びの多い大会であると強く感じる。
<了>
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