好調・阪神に今こそ求められる積年の「4番」問題

山田隆道

批判少なくない大型補強で上々の成績

掛布雅之(写真)引退以降続く、阪神の生え抜き4番打者問題。成績が好調な今こそ、若手育成という抜本的解決が求められる 【写真は共同】

 昨年末、阪神タイガースがメジャー帰りの福留孝介と西岡剛をダブル獲得したとき、阪神ファンの間では批判的な意見も少なくなかった。近年の阪神は生え抜きの若手選手がなかなか成長せず、大型補強によってチーム力を維持している状態が続いていたため、多くの虎党から「補強に頼らず、若手を育成しろ」という厳しい声が噴出したのだ。

 当時、補強戦略の中枢を担っていた阪神の中村勝広GMは、こういった批判について「気にしないと言うとウソになるけど、これはもう、『結果』だから。途中経過は気にしない。秋にどんな結果が出るのか、それによって批判は当然受けなきゃいけないし、今は過程だからね」(産経ニュース、2012年12月30日付より)と、コメントしている。つまり、今季の阪神が好成績を残せば、ファンも補強戦略を支持するはずだということだろう。

 さて、そんな経緯を踏まえたうえで、今季ここまでの阪神である。5月23日現在で26勝18敗2分、貯金8のリーグ2位。この時期としては上々の成績だ。
 しかも、この好調を支えている一人が先述した西岡である。開幕から阪神打線の一番打者に定着し、打率も3割以上をキープ。さらに攻撃的なプレーとヤンチャな性格で、チームの士気も鼓舞している。西岡と言えば、いろいろな意味で長短併せ持ったギャンブル要素の強い選手だが、現段階では彼の良い面がいかんなく発揮されている印象がある。
 その他、昨季不振だったマートンと新井貴浩も、それぞれ復活したと言って差し支えない活躍を見せており、一方の投手陣も5月23日現在でチーム防御率2.98(リーグ1位)と好調を維持している。こんなに投打がかみ合った阪神は久しぶりだ。

 したがって、球団フロントも胸を撫で下ろしていることだろう。もちろん、西岡と並ぶ補強の目玉だった福留の不振および故障や、新外国人・コンラッドの不振など、新戦力の中には期待に応えられていない選手もいるため、この好調のすべてが「補強のおかげ」とは言えないのだが、それでも勝っていることで臭い部分にふたをすることができる。批判を覚悟であれだけの補強をしたのだから、これくらいは勝たないと目も当てられない。

気になる若手の育成動向、投手は藤浪らが期待通りの活躍

 ただし、これで安心するのはまだ早い。今季の阪神が好調だからといって、それだけで近年の課題である「若手選手の育成」というテーマまで解消されるわけではない。阪神にとって昨年オフの大補強は「若手の育成は必要ない」という方針を意味しているのではなく、「勝ちながら若手の育成もする」という、言わば二兎を追う決意をしたことを意味しているはずだ。00年代に築き上げた「強い阪神」を補強によって短期的に延命しながら、その間に若手を育成することで長期的なチーム強化も並行して進める、ということだろう。
 だからこそ、今季の阪神に関しては、これまで以上に若手選手の動向が気になってしまう。こうやってチームが勝っているうちに、次代を担う中心選手が出てくるのか。

 まず、投手陣については、今のところ順調と言っていいと思う。
 先発ローテーションの中ではエース・能見篤史が今年34歳で、その他、スタンリッジとメッセンジャーもともに30代の外国人投手ということを考えると、彼らが元気なうちに将来のエースになれそうな、若い先発投手の台頭も期待したいところだが、それに関しては、なんといってもルーキー・藤浪晋太郎がいる。さらに3年目の左腕・榎田大樹も結果を残しており、この二人が順調に成長していけば理想的な世代交代ができるかもしれない。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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