柿谷を日本代表に呼ぶ2つのメリット=序列を重んじる現状での招集はあるのか
太鼓判を押すクルピ監督の証言
クルピ監督(右)は柿谷の代表入りについて、「十分レベルに達していると思う」と太鼓判を押している 【Getty Images】
その疑問を解決するのにもっともふさわしい人物がいる。C大阪の指揮官レヴィー・クルピだ。これまでにも、香川、乾、清武とクラブから代表へ。今、まさに羽ばたかんとする若き俊英たちの成長ぶりを見届けており、彼の基準に照らし合わせれば、その答えは自ずと出るのではないか。今季はあえて厳しい言動を柿谷に向けることも多い指揮官だが、その眼に現在の柿谷はどう映っているのか。5月のある日。練習場にて単刀直入に聞いてみた。すると、一呼吸置いたのちに名伯楽は、「誰を代表に選ぶのかということはザッケローニさんの仕事ではあるが」と前置きした上で、「自分としては、現在の曜一朗は十分に代表のレベルに達していると思う」と明言。「特に技術面においては代表にふさわしい」としている。さらに、メンタル面においても、「まだまだ成長の余地はあるが、これまでのいろんな教訓を糧に、今まさに一皮むけて安定感が備わりつつある」と一定の評価を下した。
ちなみに、C大阪ではチームの全体練習後にクルピ監督が個別に選手を呼び、ガンジー(白沢敬典の愛称)通訳を通して一種の教訓めいた話が行われる光景がしばしば見られる。その頻度は、選手として一流の階段を登りつつあるバロメーターとも言える。「得点という結果で自身の価値を示せ」という基本スタンスは同じなのだが、「選手は一人ひとり性格も違うし、タイプというものがある」と、発する言葉のニュアンスは微妙に変えている。J1に昇格した2010年の序盤、チームに勝利がなく、自身も開幕3試合連続で無得点と責任を背負い込んでいた香川に対しては、「あの(リオネル・)メッシでも点は取れない時はある。もっとリラックスしろ」とかんで含めるように諭した。11年の乾や清武に対しては、「タカの子どももニワトリ小屋で育つと自分がニワトリだと思い込んでしまう。チキンになるな、タカになれ」と、自らの能力を信じて自信を持つことの重要性を、精神的に鼓舞するようなトーンで訴えた。そして、今季の柿谷に対しても、“面談”の回数は増えている。これは何かの兆候とは言えないだろうか。ちなみに、柏戦の前々日にも両者は10分以上顔を突き合わせ、「一言で言えば、激しいマークを受けた中で、いかに冷静にプレーするか」(柿谷)というテーマのもと、話し合っていた。
代表にふさわしい選手となるために
ただし、冒頭にも述べたように、代表に関して話がおよぶと、顔つきが変わり、言葉も慎重に選んで話す。柏戦後のミックスゾーンでも、ひとしきり試合や得点について話し終えた後、最後に「協会の方(原博実強化担当技術委員長)も視察に来ていたが、アピールになったのでは?」との質問が飛ぶと、「いや、今日の出来では(アピールに)なっていないでしょ。レヴィーからも『ミスが多かったぞ』と言われました」とギュッと口を結んだ。
一つひとつのプレーの正確性。その点を今の自身に足りないモノだと考えている。代表にふさわしい選手はミスの回数が少ない。だからこそ、2点を奪って勝利の立役者となった柏戦後も得点のみに満足することなく、全体的なプレーの質について、自然と反省の言葉が口をついて出た。ミスをするかしないか。クルピ監督はそれを「集中力」だと言う。「技術はあるのにできない。それは集中力が足りないから」だと。たとえば、香川がマンチェスター・ユナイテッドでコンスタントに出場機会を得ているのは、際立った得点力や技術力があるからこそだが、前提として、トラップやパスといった何気ないプレーの中でミスが少ないことも挙げられる。もちろん、現在の柿谷もミスの少ないプレーを続けているが、第11節の川崎フロンターレ戦では、自身のボールロストが起点になって川崎の同点弾を許し、柏戦でも終盤、相手に渡し、カウンターを浴びた場面もあった。そういった細かいプレーの精度を高め、選手としてより高いレベルへ到達すること。その先に、代表という肩書が得られると考えているのだろう。
それでも、現在の柿谷が代表選手にふさわしい風格を備えつつあることは、確かである。
<了>