「悪者」モリーニョ劇場の終えん=憎まれ続けた男がマドリーを去るとき
繰り返されてきた衝突
今季限りでの退団が有力視されるモリーニョ監督。すでに選手やファンからは信頼を失っている 【Getty Images】
「おそらくノー。ここよりも自分が望まれる場所にいたい」
逆転での決勝進出まであと1ゴールと迫ったドルトムントとのチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第2レグの後、ミックスゾーンでイギリスの『ITV』のインタビューを受けたモリーニョは、そう言って今季限りのレアル・マドリー退団を暗に認めた。
だが本人がこのような発言を行うまでもなく、今季限りで彼が退団することはずいぶんと前から既定路線と見られてきた。
モリーニョは自身の目的を全うするためには敵、味方を問わず容赦なくたたき、直接的、間接的にプレッシャーをかけていく男である。
そんな彼のやり方は、紳士のクラブというイメージを重んじるレアル・マドリーとは相いれぬものだ。ゆえに一部のファンやメディアはもちろん、クラブ生え抜きで象徴的存在のイケル・カシージャスらスペイン人組とは、就任1年目から何度も衝突を繰り返してきた。それでも彼がここまで持ちこたえることができたのは、1年目はスペイン国王杯、2年目はリーガ・エスパニョーラ優勝と結果を出すことで高まる批判を沈めつつ、2年連続で決勝まであと一歩と迫ったCLにおいて、悲願のデシマ(通算10冠目)獲得への期待感を与え続けてきたからに他ならない。
頂点に達したモリーニョ不信
3年目を迎えても、カウンター以外に攻撃のアイデアを提供できていないことなど、モリーニョにも不振の一因はあった。ただ彼は自身の非を認めるどころか、昨季ほどの野心や集中力が感じられなった選手たちへの批判を公然と繰り返すことで、再び周囲の不満を煽っていった。そしてその不満は、キャプテンのカシージャスをケガもなく先発から外すという不可解なさい配を行った昨年12月末の時点で頂点に達する。
例年と比べて、カシージャスのパフォーマンスが低下していたのは確かだが、それもリーグ戦でのプレー経験が、10試合にも満たない第2GKのアントニオ・アダンを先発に抜てきする理由にはならない。ゆえに「純粋に戦術的な理由に基づく決断」という説明を真に受ける者などいるはずもなく、誰もが自身のやり方を受け入れようとしないマドリディスモ(レアル・マドリー主義)に対する挑戦ととらえた。
その後、サンティアゴ・ベルナベウのホームゲームでは、モリーニョに対するブーイングが以前にも増して聞かれるようになっていく。1月末にはカシージャスとセルヒオ・ラモスがフロレンティーノ・ペレス会長に対し、「来季もモリーニョが続投するならば主力選手の大半がクラブを出ていく」と進言したというスクープも報じられた。
この頃にはもはやスペイン人組のみならず、指揮官の優遇を受けてきたジョルジュ・メンデス代理人関係のポルトガル人組までもが、モリーニョへの信頼を失っていた。それが派閥割れしていたチームを1つにまとめ、デシマ獲得へ向け一致団結させることにつながったのは皮肉な話である。もし、モリーニョがそこまで考えた上ですべてを仕向けたのだとしたらあっぱれだが、いずれにせよ今回も彼は悲願のタイトルには届かなかった。