急成長を遂げたハーフナーを指揮官が絶賛=「ものすごい“荷物”が備わっている」

中田徹

チームから信頼される存在となったハーフナー

後半戦だけで9ゴールを決めたハーフナー(右)をルッテン監督も絶賛する 【写真は共同】

 残念ながら出場機会はなかったが、安田もこの試合でフィテッセを去る。カレンのユニホームをもらった安田は「宝物や」と言いながらロッカールームへ戻っていった。「本当に良い経験をさせてもらいました。感謝の気持ちしかないです。今日はハーフタイムに監督から『ウォーミングアップ、ちんたらし過ぎ』って怒られたんで、それだけが納得いってないです(笑)。ちょっと納得できないんで、今からしばきに行ってきます」。最後まで安田節がさく裂した。

 ハーフナー・マイクはフル出場したが、この日は不発に終わった。それでも後半戦だけで9ゴールと固め取りし、合計11ゴールと飛躍のシーズンになった。

「シーズン最後の方は、完全にマイクはスタメンだった。今日だってマイク、実は副キャプテンですからね。チームのみんなの信頼も厚い。ボールが集まって来ないと点は獲れへん。11ゴール、俺はスゴいと思いますよ」(安田)

「選手の間で(副キャプテンを)決めたんですよ(笑)。ただ単に、他の人がキャプテンをやりたくなかった。『じゃ、俺やるよ!』『それで行こう』という感じ。軽いノリで」(ハーフナー)
 
 ハーフナーの成長を指揮官はどう見ているのだろう。フレッド・ルッテン監督に話を聞いてみた。

「ハーフナー・マイクの成長に、私はとても満足している。今、彼は本当のプロフットボーラーであることを認識している。プロとして“投資”すること、それを理解しているんだ。その結果、マイクは素晴らしい成長を遂げた。シーズン前半戦、マイクはレギュラーではなかったが、自分への“投資”をしっかりした結果、ここ数カ月の彼はチームにおいて本当に価値のある選手になった。そしてゴールという結果も出せるようになった」

 ここで言う“投資”とは自分を高めるために努力するという意味だ。単純なパス練習でも、ハーフナーは意識して試合で使える技術まで高めようとしたという。ハーフナーの強化プログラムも組まれていた。

「マイクのフィジカルはひ弱だった。肩が落ちてるように見えただろ!? マイクはその点、改善しないといけなかった。彼には、とりわけ上半身を鍛えるために、週に2回の筋トレメニューを組んだ。また、時には私と、多くはストライカーコーチのレネ・アイケルカンプとビデオを見ながらプレーの改善ポイントをチェックした。アイケルカンプとは週に一回、ストライカーとして必要とされるプレーの個別練習も行った」(ルッテン監督)

ストライカーというイメージを一度消す

 今季のハーフナーは左ウイング、左MF、トップ下のポジションでも“シャドーストライカー”“10番”と違うアクセントの働きを要求された。ルッテン監督は『ハーフナー=ストライカー』というイメージを一度消してみて、今のフィテッセにおいて、彼が最大限に結果を残せるポジションはどこなのか吟味した。こうして生まれたのが今の『9.5番』というストライカーとトップ下の間のポジションだった。

「私がフィテッセに来た時、クラブはマイクのことをストライカーとしか思っていなかった。しかし、何度かトレーニングを見ているうちに、彼なら他のポジションでもこなせるのではないかと私は気付いた。うちのチームには(ウィルフリード・)ボニーというエースストライカーがいる。しかし、(ジョナタン・)レイスやマイクといったストライカーも、試合に出ることで成長しないといけない。そこで私は彼らを左ウイングで起用したこともあったし、マイクを左MFに置いたり、ボニーと2トップを組ませて4−4−2にしたこともある。オランダでは4−3−3が常識なんだ。こうしたプロセスを経て、『どこのポジションでプレーすると最大限の結果を出せるか』と考えた結果、マイクは『9.5』のポジションになった」(ルッテン監督)

 シーズン後半戦に見せたハーフナーの急成長。これをルッテン監督はどう説明するのか。

「私は彼の尻に蹴りを入れ、さらに杖でたたいた。そうしたら彼は走り出したんだ(笑)。冗談、冗談。何がマイクに起こったかというと、シーズンの前半戦、主に筋トレを中心に彼は自分への“投資”をし、それを後半戦で“結果”に置き換えたんだ。しかも彼はすごく走る選手だ。今の彼にはものすごい“荷物”が備わっている。お前、“荷物”って意味が分かるか?」(ルッテン監督)

 鞄の中にはたくさんの荷物を詰め込むことができる。体という“鞄”の中には、どんどん“能力”がつまっていく。それがオランダ語における“荷物”という言葉が持つ比喩だ。多くの“荷物”を詰め込んだハーフナーは、いつでもそこから技術や経験を取り出せることができる。新シーズンは、本当のブレークを期待したいと思う。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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