名門再建へ、J2千葉が抱えるジレンマ=「今季こそ」昇格への思いは結実するのか

菊地正典

乗り越えるべき精神力の問題

昨シーズンはプレーオフ決勝で敗れ、昇格ならず。選手たちは1勝の重さを肌で感じている 【写真は共同】

 また、精神面も決して小さくない課題の1つだ。岡本は「このチームの良いところは、勝ち点を取った後にも地に足をつけているというか、足元を見て『全然中身がないよね』という話ができる」と言う。それは当然、長所である。一喜一憂せずに向上していく姿勢は、J1に昇格するためには欠かせない要素だ。

 その一方で、MF米倉恒貴はこう話す。「負け出すと雰囲気が悪くなる。他のチームの選手に話しを聞くと、負けても『次、勝てば良い』と楽な気分でやっているみたいだけど、このチームは負けると落ち込んでしまう」。それはいわば、宿命でもある。J1昇格を目指す以上、1つの試合、1つの勝ち点を落とすことが“失敗”へとつながっていく。勝ち点3差、つまり1勝の差で自動昇格を逃し、プレーオフ決勝を0−1で落とした選手たちは、それを肌で感じている。だからこそ、敗戦が大きなダメージとなる。それでもやはり、J1に昇格するためには精神力の問題も乗り越えなくてはならない。

 もしかしたら、現時点では1つの形を作る、枠にはめることの方が結果につながるかもしれない。しかし、鈴木淳監督は「選手たちには幅を持ってほしい」と話す。「将来につながったり、勝利するということはそういうこと。たとえば、他のチームに行った時にでも活躍できるようになってほしい。ここではできるけど、他ではできない、ではダメ。それまでのチームでは良かったけど、他のチームに行って戦術が変わると全くダメになる選手がよくいるけど、そういう選手にはなってほしくない」。

 そして選手たちは今、自発的に問題の解決に取り組もうとしている。その1つがDFラインを高くして全体をコンパクトにすることだ。ラインをコントロールする山口智はこれまで、プレッシャーがかからないためにラインを下げてきたが、逆にラインを上げてスペースを消すことで1人ひとりの走る距離を短くし、プレッシャーをかけやすくしようとしている。さらに「あとは相手ゴールに近い位置でボールを奪えれば、2本、3本でフィニッシュに行けるようにもなる。まだまだ難しいけど、やり続けないといけない。チーム全体で同じ思いを持ってやり続けることで良くなっていく」と話す。岡本も「まずは連動した良い守備をして、そこからゲームをコントロールできるようにしたい。そうすればもう少し、面白い展開にできるんじゃないかと思う」と期待する。

決して前途洋々ではない

 第8節のファジアーノ岡山戦から第11節の京都サンガF.C.戦まで4試合勝利がなく、順位も10位まで落とすこともあったが、第11節の愛媛FC戦、第12節のFC岐阜戦と連勝を果たして6位に浮上した。ともに自分たちの理想通りに試合を運べたわけではない。同じリーグとはいえ力が劣る相手に対して、“地力での勝利”という方が正しいだろう。厳しい内容であるがゆえに勝利から遠ざかっていたことも事実であり、その内容を精査し、修正していく必要があることも、それがなければ未来がないことも確かだ。

 だが、「全部が全部、自分たちでコントロールしてパーフェクトにいく試合はない。でも、失点ゼロに抑えて、結果につなげないといけない」(山口智)。そうして勝利を収めながらチームとして向上していくしかない。

 決して前途洋々ではない。今季はG大阪、ヴィッセル神戸と千葉に匹敵する、あるいはそれ以上の戦力を擁するクラブもある。だが、「今季こそは」という思いも強い。その思いを結実させることはできるか。戦いはまだまだこれからだ。

<了>

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著者プロフィール

福島県出身。埼玉大学卒業後、サッカーモバイルサイトの編集・ライターを経てサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の記者として活動し、横浜FC、浦和レッズ、ジェフユナイテッド市原・千葉、横浜F・マリノスの担当記者を歴任。2020年からはフリーランスとして活動している。著書に『浦和レッズ変革の四年 〜サッカー新聞エルゴラッソ浦和番記者が見たミシャレッズの1442日〜』、『トリコロール新時代』(ともにELGOLAZO BOOKS)がある。

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