高橋由・清水が語る松井秀喜“強さ”の秘密

ベースボール・タイムズ

清水「とにかく“マイペース”だった」

現在は2軍打撃コーチを務める清水は、初めて松井に会った時、他の選手と違った雰囲気を感じたという 【ベースボール・タイムズ】

「まず体が大きいなと思いました。あとは雰囲気。初めて会った時から他の選手とは違う雰囲気を感じましたね」
 2位に11ゲーム差を付ける独走でペナントレースを制し、日本シリーズでも西武を4連勝で撃破した02年の巨人を“最強”と呼ぶ声は、今なお強い。その最強打線の1番打者を務めたのが、同年最多安打のタイトルを獲得した清水隆行だった。入団は松井の方が早かったが、年齢は1つ上。現在、巨人の2軍打撃コーチを務める男が“ゴジラ”との思い出を、考え込むようにして振り返った。
「打席の中だけじゃなくて、野球から離れてもすごく落ち着いていた。決して堅苦しいというわけじゃなくて、すべてにおいて冷静に考えている感じでしたね。普段は冗談とかも言いますけど、とにかくマイペース。本人の中ではいろいろと悩みがあったかも知れないですけど、そういうものを決して表には出さなかった。決して周囲に悟らせることはなく、常に同じテンションでプレーしていましたね」

 02年、プロ10年目を迎えた松井は、7月に通算300号本塁打を達成すると、後半戦の64試合で32本塁打という驚異的なペースでアーチを量産し、史上8人目、巨人では王貞治以来25年ぶりのシーズン50本塁打を達成。打率3割3分4厘は惜しくもリーグ2位となったが、本塁打王に加えて107打点で打点王も獲得。シーズンMVPにも輝いた。
「特に02年の松井はすごかった。僕から見ても、まともに抑えられる投手がいなくなっちゃったんじゃないかと思うくらい圧倒的だった。周りがどう評価しているかは分からないですけど、一緒にプレーさせてもらった一人としては、02年のチームが最強だったと思いたいですね(笑)。楽しくといったら語弊があるかも知れないですけど、すごく良い雰囲気の中で一緒にプレーさせてもらった。そして4番・松井を中心にして日本一になれた。何よりもその事実が、一番の思い出ですね」

背番号「55」に感じた強さと信頼感

 誰よりもストイックに、松井は自らのバッティングを磨き続けた。そして『55』が記されたその背中で、チームを力強く引っ張った。
「練習でも試合でも、それにどう取り組むべきかをすごく考えていた。ただ打った、打てなかったという所で終わらずに、どういう考えで、どういう練習をして、そしてどういう気持ちで打席に立つべきか。松井の普段の姿勢から、僕もそういうものを学びましたね」
 チームメートからの信頼は絶大だった。高橋と同じく、清水もやはり、松井の持つ“強さ”を訴える。
「本当は彼にばっかり頼ってはいけないんですけど、『松井だったら何とかしてくれる』という期待感があった。そう思っていたのは僕だけじゃないはずです。技術的なものだけじゃなくて試合に出続ける体の強さもあった。あれだけ注目されて重圧がかかる中でも常に結果を残し続けるメンタルの強さも感じましたね」

 日本球界でまさに敵なしの状態となった松井は、ついに海を渡った。そして勝負強い打撃でヤンキースの4番を務めるなど実績を重ね、09年のワールドシリーズでは13打数8安打3本塁打8打点の大爆発で見事にMVPに輝いた。
「ヤンキースで4番まで打って、ワールドシリーズでも活躍するわけですからね。松井という選手は本当にすごかったんだなというのを改めて感じさせられました。引退を聞いた時は寂しさというものはありましたけど、彼らしくて良かったと思います。自分で引き際を決められる特別な選手なわけですし、本人が自分で決断したことですから、それが最良の選択だったと思います」

元チームメートも喜ぶ国民栄誉賞

 高橋は5年、そして清水は7年間を松井とともに同じチームで過ごした。楽しそうに“ゴジラ”との思い出を振り返る2人を前に、日米間の距離、時間的な空白などは無関係ないのだと知らされる。
「松井さんは身近な先輩。一緒に戦った人がそういう賞をもらうというのは、なんか不思議な感じですね。僕からこの言葉が適切かどうかは分からないですけど、おめでとうございます」
 松井の国民栄誉賞受賞に対し、高橋は言葉を選びながら丁寧に祝辞を述べた。清水も続く。
「彼がこれまでに残してきたものが積み重なって、こういう賞になったと思いますし、本当に素晴らしいことだと思います。一緒にプレーした選手が国民栄誉賞をもらうというのは喜ばしいことですね」

 まだ38歳。国民栄誉賞の受賞は時期尚早という声があるのも確かだが、松井はそれすらも「今後、何十年かけて、賞をいただいて失礼ではなかったと証明できるよう努力したい」と真正面から受け取った。その真っすぐな“強さ”こそが、松井の魅力なのだろう。旧友2人とともに、5日の東京ドームを楽しみに待ちたい。

<了>

(三和直樹/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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