誤算続きでも風間監督更迭の可能性は低い=川崎に浸透する選手たちの自発的な意識

江藤高志

多摩川クラシコでの完敗

川崎の実力が問われる多摩川クラシコだったが、ミスを繰り返し完敗を喫した 【写真は共同】

「完敗でしょ」との言葉を皮切りに、熱を帯びた敗戦の弁が続いた。一見(いちげん)の記者が去り、顔なじみの番記者だけが残って初めて、田中裕介が切々と語り始めた。4月27日に行われたFC東京戦後のことである。

 多摩川クラシコは、川崎フロンターレの現在位置を指し示す試金石になるものだった。第7節のベガルタ仙台戦で今季リーグ初勝利を手にした川崎は、24日のヤマザキナビスコカップ第5節にも勝利して連勝を記録。公式戦2連勝の実力がどれほどのものかが問われていた。

 序盤から3ラインが等間隔の距離を保つ、コンパクトな陣形で試合を進める川崎に対し、FC東京は積極的なプレスを試みる。結果的に両チームが使える時間とスペースは削り取られ、それぞれがミスを頻発。攻守の入れ替わりは激しかった。しかし、FC東京のファーストシュートが川崎のゴールネットを揺らし、試合展開は一変した。

 1点をリードしたFC東京は、守るときには堅牢な守備ブロックを自陣に築き、川崎の攻撃陣にスペースを与えなかった。時にロングボールを蹴って川崎の最終ラインを押し下げ、最前線との距離を間延びさせる。相手のコンパクトな陣形を崩すことを狙った老練な戦いに、川崎はペースを崩した。試合も後半に追加点を許し、0−2で完敗を喫した。

 横浜F・マリノスとの神奈川ダービーでは、試合後の会見で風間八宏監督に記者から進退を問う質問が出た。このFC東京戦後には川崎の庄子春男GM(ゼネラルマネジャー)が、多くの記者に囲まれて試合会場を後にした。2つの重要な試合を落としたことで、監督交代の可能性がささやかれたが、当面の更迭はなさそうである。ただ、それは絶対的な方針ではない。なぜならば風間監督にとって今季は、望む環境を与えられたシーズンだからだ。

対外試合では好成績を残したが

 今季の川崎の選手補強は、ほぼ風間監督の意向に沿ったものであり、満足いくものだった。だが、補強の目玉はチームトップタイの4ゴールを決めている大久保嘉人をはじめとした選手よりも、フィジカルコーチに西本直氏を招聘(しょうへい)し、選手管理の強化を狙ったことだ。西本コーチは、肩甲骨を意識したトレーングを浸透させ、体の使い方を意識させる斬新な指導を実施。これにより、走りの質が向上し、ケガの少ないシーズンが送れるはずだった。

 プレシーズンにおけるチーム作りも今までの川崎にはないものだった。例年、春先のキャンプでは歴代の監督、コーチ陣が徹底的な走り込みを選手に課し、1年間を戦える基礎体力をつけてきた。持久力、技術、戦術といった3つの要素に分け、それぞれを取り出して鍛えてきたのである。ところが風間監督はそうした従来的なチーム作りを行わず、ボールを使った負荷の高い技術練習と紅白戦、対外試合を精力的にこなした。レギュラーシーズン中も紅白戦を数多く行っているが、それは指揮官いわく「試合の中にすべてが詰まっているから」。ボールを使った練習の中で追い込み、シーズンを通して体を作るという考えでチーム作りを進めてきたのである。

 余談だがスポーツの要素を分解せず、統合した形で練習させるこうした手法は、スペインでは20年ほど前から「インテグラル・トレーニング」として浸透してきている。スペイン代表のワールドカップ優勝はもちろん、バスケットボールやホッケー、水球といった各種スポーツでも結果を出すことで、その有効性が証明されている。こうしたチーム作りについて稲本潤一に聞くと「監督の好みで違いはあるでしょうが」と前置きしつつ、「イングランドやドイツではこうした(今季の川崎のような)準備でした。フランスは走りましたね」と自身の経験を踏まえて振り返り、今季の川崎の走らない準備について「不安はない」と言い切っている。

 川崎がシーズン前に行った対外試合は8試合。ここで7勝1敗の戦績を残し、意気揚々とシーズンを迎える。しかし、開幕戦の柏レイソル戦は、カウンターによる失点を重ね、1−3で敗戦。不用意な先制点を奪われた大分トリニータ戦は、同点に追いつくのがやっとだった。アウエーのサガン鳥栖戦に至っては、連続失点で一時は0−4と大量リードを許した。この鳥栖戦を境に風間監督は守備をテコ入れし、相対的に攻撃力が影をひそめることとなる。そして、ここに中村憲剛の不調が追い打ちをかけた。4月3日のナビスコカップのジュビロ磐田戦で内転筋を痛めた中村は、十分な練習を行えないままリーグ戦2試合に出場。しかし、不完全な状態が続くことで、チームに迷惑をかけてしまうと判断し、治療のため戦列を離れることとなった。

 筋肉系のケガの発生を抑えることが期待されたシーズンにもかかわらず、中村に加え、レナトが内転筋を、登里享平が左太ももにそれぞれ肉離れを発症するという誤算が続いている。

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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